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EDUCATIONAL SEMINAR
MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
村上 紘一 (慶應義塾大学医学部学生(6年)) 2010/04/04
 慶應義塾大学医学部新6年の村上紘一と申します。

 今回、私は上野直人先生に許可をいただき、3月29日~4月2日の1週間、M.D.Anderson Cancer Centerを見学させていただきました。

 本来であれば、見学している期間中に毎日掲示板に投稿するべきだったのですが、パソコンを持っていかなかったため、ホテルのパソコンで日本語は読めるものの、日本語を入力する方法が分からず、帰国後に書きこませていただく形となってしまいましたことお許しください。

 期間中、パソコンで打つ代わりに、持参したノートに記録をつけておいたので、それを基にして、見学内容や見学中に感じたことなどを書かせていただこうと考えております。

 前置きのような文章が長くなってしまいましたが、明日から少しずつ書かせていただくつもりでおりますので、意見・反論・コメントなどいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
村上 紘一 (慶應義塾大学医学部学生) 2010/04/05
 まず初日に関してです。

 見学初日の3月29日から上野先生ご自身も病棟担当がスタートということで、この日は患者さん一人一人に少なくとも15分以上かけて回診が進んでいきました。

 病棟での上野先生のチームは、Docotor1名、Advanced Nurse Practitioner3名、Clinical Pharmacist1名、Data management2~3名+各病棟担当のClinical Nurseの方々という構成でした。(もしかすると、職種の名称が一部間違っているかもしれません。)

 Nurse Practitionerの方々の仕事は、日本だと研修医が行っているような役割に近いようでした。先生の回診の前に自分で患者さんのもとを回り、前日からの一日でどういったことが起こったか、調子はどうかなどを把握して先生と相談して治療方針を決定していました。

 Clinical Pharmacistの方は、DoctorとNurse Practitionerから得た患者さんの情報をもとに薬のオーダーをほぼ全て決めていました。投与する薬についての詳しい説明も彼が中心に行っているようでした。

 このチームの中でのDoctorの役割としては、患者さんの訴えとNurse PractitionerやClinical Pharmacistの方々からの情報とを合わせて総合的に患者さんに今何が起こっていてどう対処すべきかを最終的に決定する、いわばチームの司令塔といったポジションでした。

 日本ではこれら全てを複数人の医師で行っているのに対して、こちらではそれぞれの職種の専門性を上手く活かし、最終的に患者さんも含めてチームの意思を一つにまとめていくという流れになっていました。

 職種によって得意分野が違うため、このようにチームで患者さんをケアすることで、一人ひとりが自分の得意とする部分に集中できるようなシステムが出来ているようです。

 最終的な治療方針の決定は医師が行うわけですが、チームの中で誰が一番偉いかということを意識することはなく、全員が患者さんを良くしたいという共通の目標に向かって対等な関係で意見を言い合っていました。

 これが本当のチーム医療か、という軽いカルチャー・ショックを受けました。僕が見ていないだけかもしれませんが、少なくとも日本では他職種の方々とあれほどまでしっかりとコミュニケーションを取る医師をあまり見た記憶がありません。

 また、回診で日本と違うように感じたのは、先生が患者さんにとてもたくさん質問をするということです。
 たとえ調子が良い患者さんでも、「どういう風にいいの?」という質問をしますし、患者さんが一通り話し、医療者側からの考えが伝えられた後には、必ず"Questions?"、"Any other discomfort I need to know?"など本当に聞きたいことがないかを何回も念入りに確認します。

 日本では、どの先生も時間に追われている感じで、調子が良い患者さんにも10分以上かけるような場面はあまり見たことがありません。それは、日頃実習させていただいている大学病院に限らず、見学に行ったことがある市中病院などでも同様だったと思います。
 それにたくさん医師がいるわりに、話すのは大抵回診されている先生と患者さんの二人だけのように感じます。回診の人の数はアメリカよりも圧倒的に多く、病室は当然のごとく圧倒的に狭いため、よほど積極性を出さないと会話が一言も聞き取れないこともしばしばあります。

 こちらでは回診の中で、病気以外の患者さんの趣味であったり職業についてであったりといった話題も適宜みんなで話をすることで、自然と和やかな雰囲気になりますし、日ごとに信頼関係が増していっているように感じました。
 英語は、初日は特に6割くらいしか理解できなかったような気がしますが、それでも回診で笑顔になる場面はたくさんありました。先生の担当患者さんの数は30人近かったので、回診の終盤は多少疲れもありましたが、それでも病室に入れば全員明るい顔になりますし、医療者の目が、以前大西君も言っていたようにたしかに日本よりも生き生きしているので、病棟全体の雰囲気が明るいように感じました。

 この日は回診が14時過ぎくらいまでかかり、その後お昼を食べながら色々とお話をさせていただきましたが、15時頃に終了となりました。

 だらだらと長くなってしまってすいません。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
村上 紘一 (慶應義塾大学医学部学生) 2010/04/06
 2日目は、病棟回診の後、Breast Cancer Clinic(外来)を見学させていただきました。

 病棟回診は、2日目には前日あった患者さんの病歴などを確認する時間が減った分、トータルの時間は2時間近く早くなりました。しっかりと時間をかけてコミュニケーションを取っているためか、前日よりも患者さんの顔から緊張が取れているように感じました。

 また、状態が安定してきている患者さんに対しては、かなり早くから積極的に退院が検討されるのは、日本と違っているように感じました。
 こちらでは患者さん自身も、心配だから何もなくても病院にいたいというよりは、出来ることなら一日でも早く病院を退院したいという考えを持っているようでした。

 この違いの背景には保険制度の違いなども関係があるのかもしれませんが、一つには患者さんが自分の病気や治療法に対してかなり理解しているために、分からないことに対する不安というような感情が少ないのかなと感じました。

 外来は、初診の方には1時間程度、再診の方にも30分前後かけるという日本とはまるで違うシステムでした。これだけしっかりと時間が確保されていると、医療者の側にも余裕があり、色々な話を交えて信頼関係を構築しながら治療を進めていっているという様子がよく分かりました。日本では、外来で患者さんと医師が会話しながら笑顔になる場面はそこまで多く見たことがないように思います。

 この診察にかける時間というのは、医師がずっと一人で見続けているというわけではなく、医師には必ず一人のNurse Practitionerのアシスタントがついていて、彼らが病歴を聞いたり一通り大まかな身体所見をチェックしたりといった診察を済ませた後、医師が確認して患者さんと話をしながら治療方針を決めていくという流れになっていました。

 ただ、現状を考えてみると、日本ですぐにこのシステムに近いものを導入するのはかなり難しいと思いました。
 こういったシステムを導入するためには、今の日本ではNurse Practitionerにあたる役割をする医師を今よりさらに一人必要とする上に、医師の控え室も必要なので、かなり乗り越えなければいけない壁がたくさんあります。
 外来にさらに余分に医師を配分すれば病棟はより手薄になってしまいますし、現在行われているような医師数を増やす努力も大切かもしれませんが、医師の仕事をサポートしてくれるコメディカルを育成し、医師は医師にしか出来ない仕事に専念できるような体制を構築することが重要ではないでしょうか。

 今の5分診療とも3分診療とも言われる状況でもしっかりとした信頼関係を築いている先生方ももちろんいるので、日本の医師がアメリカの医師に大きく劣るということでは決してないと思います。問題はシステムにあり、やはり医師は仕事内容の再配置を考える必要があるのではないでしょうか。

 あと、一つ日本でも心がけ次第でわりとすぐに改善できそうかなと感じたのは、内科と外科の連携の良さです。

 どの患者さんも基本的に、内科の上野先生と外科のDr.Feigの二人に定期的に診察を受けていて、内科的な治療法がメインか外科的な治療がメインかによってどちらが主治医になるかを決めるという流れになっていました。そして、何か重要な治療法の選択を行う際には、上野先生とDr.Feigが必ず直接会ってお二人で議論されていました。

 こうすることで、術前化学療法からオペ、またはオペから術後化学療法といった内科的治療と外科的治療の切り替えの際に、患者さんにも担当医師が変わるという不安を与えることなくスムーズに移行することが出来、さらに医師も自分の専門領域に専念できるようです。

 昨今外科医の減少が懸念されている日本でも、このシステムを導入出来れば、外科医が一人の患者さんを診る回数はかなり減らすことが出来るので、優秀な外科医がより多くの患者さんを診ることが出来るようになる上に、外科医も外科的治療に専念でき、かなり利益があるのではないかと感じました。
 
 また、日本では先生方が多忙すぎるのかもしれませんが、なかなか別の科の先生同士が直接会って患者さんについて議論するという場面は見かけないように思います。
 もちろん、きちんとされている先生も何人も見たことがあるので、決して全ての医師に当てはまるわけではありませんが、併診という名の押し付け合いを依頼書の紙の上でのやりとりでするのではなく、直接会ってコミュニケーションを取ることは、お互いを教育することにもつながり、望ましいのではないかと感じました。

 外来は16時過ぎに終了し、この日の見学は病棟と外来見学で終了となりました。もちろん上野先生のお仕事がここで終わるわけではありませんが。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
村上紘一 (慶應義塾大学医学部学生) 2010/04/09
 3日目も病棟見学の後、外来見学でした。

 この日は、Physician Assistantの方が一人いらっしゃって、この方が先に診察してから上野先生が診察を行い、患者さんと話をして最終的に治療方針を決めていくという流れでした。

 彼女が診察をしている間に、上野先生は患者さんの前医やかかりつけ医と電話で連絡を取ったり、カルテ記載を行ったりといった作業を行うことが出来、無駄が少なく、また時間に追われて患者さんの診察を出来る限り早くこなしていくといった日本で見られがちな雰囲気が一切ありませんでした。
 彼女の存在が負担を半分以下にしてくれていると上野先生ご自身もおっしゃっていました。

 前医との連携については、日本だと紹介状という形で、前医と話をするようなことは多くないように思いますが、直接コミュニケーションを取るということは情報量が圧倒的に増えるので、やはり意味があることだろうと感じました。日本の今のシステムでそれを行うような時間的余裕があるかというと疑問に思いますが。

 また、患者さんと話をする時間も治療方針を説明する時間もしっかり確保されていて、ここまで患者さんとゆっくり話をする時間が取れたら、きっと患者さんの満足度はだいぶ違うのだろうと思います。

 また、Physician Assistantの方は、医師と同様のトレーニングを受けているわけではないそうですが、それでも現場に出てからもさらにトレーニングされているので、日本の経験の浅い研修医と比べて能力が劣るようなことは決してないように感じました。

 日本とアメリカは、システムがかなり違うということを話には聞いていましたが、ここまで違うものなのかと3日間で身をもって実感しました。M.D.Andersonはアメリカでもトップのがんセンターなので、それを簡単に「アメリカ」という風に一般化してしまうのは、やや飛躍があるかもしれませんが。

 最近、家庭医などが取り上げられているように既存の職種で効率を上げてやりくりしていく方法を考えることもとても重要だと思いますが、同時に何か大きくシステムを変えることを考慮しても良いのではないかと思いました。

 あまり上手くまとまっていませんが、ここまでが3日目の感想です。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
飯原(岐阜大学) 2010/04/09
とっても臨場感あふれる書き込みをありがとうございます。
大変楽しく読ませていただいています。
確かに日本とアメリカのシステムは異なっていますが、チーム医療の本質は変わらないと思います。システムを変えていくためにも、今、日本で出来る最高のチーム医療を提供し続けることが大切ですね。
村上さんは、日本でどのような取組みを行うことが有効だと思いますか?
また、どんな取組みができそうですか?
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
村上 紘一 (慶應義塾大学医学部学生) 2010/04/10
>飯原さん

 コメントをいただき、ありがとうございます。

 今回の見学を通してとても重要だと感じたのは、医者が医者にしか出来ない仕事に集中できるような環境を作ることと患者教育です。


 まず、医者の仕事環境についてですが、日本とアメリカでは、いわゆるコメディカルと言われる職種の数がまるで違っていました。
 そのまま真似しようとしても上手くいかないかもしれませんが、アメリカのNurse Practitionerのように、日本の研修病院で研修医の先生方が行っているような仕事が出来る職種の導入は意味があると思います。
 例えば、医師の仕事の能力が10だとして、いま医師以外でも行える仕事を5しているとすれば、実質残りの5しか医師として機能していないのと同じことと考えられます。その5の部分(他職種に振り分け可能な部分)をサポートする職種を養成して、0に出来なくても1か2に出来れば、それは医師としての機能は一人が5→7~8となるわけですから、医師数が1.5倍程度に増えるのと同じことだと考えられるからです。(ここで出した数字は、なんとなくの印象で根拠がきちんとあるわけではないので、そこまで上手く当てはまらないかもしれませんが。)

 具体的には、看護師さんのさらなるキャリアアップという形で導入してもいいですし、それがもし上手くいかなければ、既存の職種とは独立して養成しても良いのではないかと思います。少なくとも4年制のメディカルスクールを導入して医者を増やすよりは、年数も短く済み、かかるコストも低く抑えられるのではないかと思います。

 また、私が実習している大学病院でも時々病棟で薬剤師の方にお会いすることがありますが、M.D.AndersonのClinical Pharmacistのように、薬剤師の方にチームに積極的に入ってもらうことは、医者にとっても患者さんにとっても有用だろうと思います。


 次に患者教育についてです。

 まず、これは上野先生も講演などでよくおっしゃっていることのように思いますが、アメリカでは患者さんは自分の病気や治療の内容をきちんと理解しています。これは最初からそうと言うわけではなく、医師やNurse Practitonerの方やM.D.Andersonで言えば多くのVolunteerの方が繰り返し説明していることによるものだと思います。それと、「よく分からないけど、不安だからあまり早く退院したくない」と言う患者さんは一人もいませんでした。

 それに対して、日本では主に医師とのやり取りだけで、病院に医療情報対策室などのスペースは時々ありますが、あとは患者さん次第という現状だと思います。しかし、患者さんが自分で得る情報というのは医学の基礎知識がきちんとあるわけではありませんから、何が正しいかを判断することも難しく、インターネット上に溢れるいい加減な情報などに振り回される、知識もないし不安だから出来るだけ長く病院に留まっていたいといったことが起こるのではないでしょうか。テレビのバラエティー番組などで紹介される視聴率のために脚色された医療情報に振り回されてしまえば、もう収集がつきません。

 この現状を変えるには、患者さんを正しい医療情報に導く努力を地道に続けていくしかないと思います。具体的には、日本では病院での長い待ち時間が問題としてよく取り上げられますが、その長い時間を有効に利用して病院内で医療情報について勉強出来るスペースや相談窓口を作ったり、中学・高校の保健の授業で今よりもう少し基礎的な病気の知識を教えてもらえるようにしたりといったことでしょうか。今の、病院内の無機質な待合室の空間に医療情報を載せた冊子があったり、あるいはビデオなどが流れていれば多少なりとも意識はそちらへ向くのではないかと思います。

 また、日本では高度な医療機器を持つ大病院に軽症の患者さんも集まってしまうことがしばしば問題とされ、それを解決する方法として家庭医の導入という話を最近よく聞きますが、この問題を考える上では、移動に要する労力が日本とアメリカでは大きく違うという点は忘れてはいけないと思います。日本では、例えば東京から少し離れた都市というイメージの宇都宮から東京に出るとしても、新幹線に乗ってしまえば1時間程度です。名古屋からでも2時間かかりません。国土が狭いがゆえに、アクセスが良すぎるのです。まして、家から近い大病院に行くのは、近くの開業医の先生のところへ行くのとほとんど何の違いもありません。

 患者さんは重大な病気か分からないから病院へ行くわけで、大病院の初診料を紹介状がない限り現状よりも大幅に引き上げるなど何か抑止策を併せて講じて患者さんの気軽に大病院を受診する風潮を変えなければかかりつけ医という思想は馴染まないと思います。

 それに、上手く馴染めば家庭医は医療資源を適正利用出来ていないことを解決する上では非常に重要だと思うのですが、家庭医を地方にまで配置するには、その分それ以外の専門科へ進む医師は減るわけですし、それが現状の医師不足を解消する魔法のような方法だとは個人的には思えません。

 この問題に関しては、家庭医の導入などのシステムの変化よりは、結局人の行動を大きく変えるのは経済面の影響が大きいと思うので、大病院から開業医の先生へと患者さんが分散するような何かしらの経済面のインセンティブを作るべきだろうと思います。日本で医者というと、赤ひげ先生の幻想からお金に捉われず社会に奉仕すべきという目で見られる面もあり、お金の話をするのはあまり好まれない傾向があるように思いますが。

 
 もうひとつ、最も重要だと思っているのは、現状への不満をお酒でお腹の奥底へ流し込むのではなく、Oncology Dream Teamのように、みんなで問題として意識を共有し、変化の力へと変えていく努力を一人一人がすることだろうと思います。
 どういった方法を取るにしても、現状が崩壊と形容されるほどの惨状であるのならば、明日から快適な職場になるような急激な改善は望めませんし、アメリカの現状を見て、すごすぎると圧倒されていても何も良いことはありませんし、日本には日本の良さもあると思います。
 僕が見たことのある医療現場は、都内の大学病院と首都圏の研修病院として機能する比較的大きな病院のみで、おそらく医療崩壊と呼ばれる本当の現場を見たことはないのだろうとは思いますが、よく聞く「医者の疲弊」というのが、なかなか変化を生みだせないことへの単なる言い訳のように聞こえる時もあります。その「疲弊」や現状への不満は、何か前向きな変化への原動力となっているのでしょうか?
 少なくとも、あまりに医者は疲弊しているということを前面に出すのは、今の研修医や学生の将来の仕事への希望やモチベーションを大きく削っていると思います。M.D.Andersonでも先生方は臨床に研究にとHard Workされていましたが、日本に比べればずっと明るい職場でした。お互いを尊重しあい、気兼ねなく意見が言える雰囲気がありました。
 医療関係者はみんな、患者さんの笑顔が見たいという思いを本当は共有しているはずで、その思いを持ってみんなで同じ方を向いて進めるようになるのが本当のチーム医療なのではないかなと今回感じました。

 チーム医療の話からだいぶそれてしまった部分もあるように思いますが、今回の見学で感じた日米の違いを基に、僭越ながら私の考えを書かせていただきました。長くなりすぎてしまい、申し訳ありません。
 勉強不足なので、ピント外れな意見も多々あると思います。返信は遅くなってしまうこともありますが、忌憚ないご意見・コメントをいただければ幸いです。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
村上 紘一 (慶應義塾大学医学部学生) 2010/04/11
 4日目についてです。

 この日は、病棟回診後、Labo meetingに参加させていただきました。


 まず、病棟についてですが、初日は27~28人いた患者さんが、この日までに10人近く退院していきました。

 比較的安定した患者さんがそれなりに多かったのもあるとは思いますが、こちらでは完全に調子が良くなる前から、「この日までにこのくらいに回復したら退院出来るように準備しましょう」というように、しっかりと長期的な計画が練られていて、ほとんど何もすることがないまま、漫然と入院していて病院で過ごすということが少ないように感じました。

 患者さんも目の前に目標がある分、悪化しないように食事などに気をつけたり、リハビリに励んだりといったモチベーションを高く保てているようでした。


 回診後のLabo meetingは、内容については今後おそらく論文や学会などで発表されるものだと思うので、一切書けませんが、M.D.Andersonはとても規模が大きい病院であるため、持っている患者さんのデータの量もかなりあるようで、M.D.Andersonでのデータを解析するだけでかなりの症例数が集まっている点が、研究をする上で大きな強みであると感じました。

 また、上野先生のLaboで行われている研究は、in vitroの実験からin vivoでの実験や患者さんデータの解析までを組み合わせて一連の流れが考えられており、bedsideとbenchの研究がしっかりと組み合わさったトランスレーショナル・リサーチのお手本のようでした。

 日本では、あれほど大規模な施設を作って症例を一気に集めることは難しいと思うので、今まで以上に大学と市中病院などが連携を強めて、より大規模なデータベースを整備するなど、海外と競争していくためには、日本に合った一工夫が必要であろうと思いました。

 もう一つ印象的だったのは、meetingに参加されていた先生方が、M.D.Anderson Cancer Centerという存在に対してとても誇りを持っていらっしゃったことです。

 ある先生が会議中に、「私たちはNo.1 Hospitalにいるのだから、責任を持ってしっかりとしたデータを世界に発信していかなければならない。」ということをおっしゃっていました。
 これは特に日本とアメリカの違いという話ではありませんが、世界的にも名の通った先生方が、あれほどの有名病院の教授になっても、なお仕事への情熱を絶やさず、ご自身の仕事に対して誇りを持って取り組んでおられる姿は純粋にかっこいいなと思いました。
 上野先生が以前おっしゃっていたMissionとVisionというのを、先生方はおそらくしっかりと自分の中に持っていらっしゃるのだろうと思います。

 日本にも、もちろん同じように情熱を持ってお仕事をされている先生方がたくさんいらっしゃいますが、暗いニュースばかりが溢れ、明るい見通しをなかなか持つことが出来ずにこれから医療界に飛び込んでいく私たちの世代からも、彼らのように情熱を持って医療界を引っ張っていくような医師が、将来的にたくさん出てくるようになるといいなと思います。

 4日目に関しては、meetingの内容について書くわけにはいかないので、抽象的な話ばかりになってしまいました。申し訳ありません。もし、読んでくださってご意見・ご感想等ありましたら、コメントをいただけたら幸いです。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
佐治重衡(SMU Med Oncol) 2010/04/11
こんばんわ

いつも詳しくありがとうございます。
いろいろ様子がわかり、あらためて認識を深くしています。

くもりなきまなこで、またレポートおまちしております。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
村上 紘一 (慶應義塾大学医学部学生) 2010/04/12
佐治先生

 コメントをくださり、ありがとうございます。
 誰でも読みやすいようにもっとコンパクトにまとめたいと思っているのですが、いつも長くなってしまって申し訳ありません。

 あともう一日分、見学の内容を書いていないので、近日中に投稿します。お時間があるときに、またご意見などをお聞かせください。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
村上 紘一 (慶應義塾大学医学部学生) 2010/04/13
 5日目の見学についてです。

 この日は、病棟回診の後、上野先生のチームのNurse PractitionerのNoraさんにつかせていただいて、Nurse Practitionerの方々がどのような仕事をされているのか見学させていただきました。

 回診後のNurse Practitonerの方の主な仕事内容は、もう一度患者さんのところを回って、患者さんの状態をチェックすることでした。
 
 退院する患者さんに対しては、退院後どのようにフォローアップしていくかや、どういったことに気をつけていく必要があるかといったことを一人一人に時間をかけて丁寧に説明されていました。退院後の外来の日程調整などの事務的な仕事も彼女が行っていました。

 また、移植後に血球は回復しているのに調子が良くならず寝てばかりいた患者さんが一人いらっしゃったのですが、その方に対しては、いま重要なのは一日中横になってゆっくり休むことではなくリハビリを積極的に行っていくことであるということをかなり時間をかけて丁寧に説明されていました。
 日本では看護師の方が治療方針について患者さんに説明する場面をあまり見たことがなかったので、新鮮でした。

 上野先生の病棟回診の前にも朝早くから患者さんのところを回っていますし、要するに、M.D.AndersonでのNurse Practitionerの方々の仕事内容というのは、日本で研修医の先生方が行っているようなものにかなり近いのかなと感じました。(というより、最後まで私には彼らが医者のように見えました。)彼らの存在が上野先生の負担を大幅に軽減しているのは、言うまでもないと思います。

 また、Nurse Practitonerの方々は、患者さんの病態をしっかり把握されていますし、上野先生いわくきちんと鑑別診断を挙げて総合的に判断していく点についてはトレーニングしていないから医者の方が得意とのことでしたが、その点に関しては医師との回診の中で医師が補っているので、大きな問題にはならないようでした。

 アメリカでフェローの医師がどのような仕事をされるのかは知識がなく分からないので、もしかしたらフェローの先生方はされているかもしれませんが、例えば退院後の外来の日程調整などといった事務的な手続きは医者でなければ出来ないわけではないですし、そういった業務は積極的に他の職種へ振り分けていくべきだろうと思います。

 アメリカでは、医者以外のこういった職種の存在が、医者が医者にしかできないことに集中できる環境を作り上げているということを改めて実感しました。

 また、Noraさんがおっしゃっていたのですが、Nurse Practitonerは頻度の高い疾患に関して集中的に学んでいて、M.D.Andersonのような高度医療を行う施設よりもむしろ医者の数が不足しているような地域で力を発揮するんだそうです。

 頻度が高い、いわゆるcommon diseaseをケアする能力があれば、医師不足の地域の医療に十分な戦力になると思いますし、いま日本は、医師不足に対して医師を増やす道を選ぼうとしているように思いますが、医師のサポート体制を強化していく道も同時に考えて良いのではないかと感じました。

 その後、退院後すぐの患者さんをフォローアップするためのFast Trackと呼ばれる外来や、造血幹細胞を採取する部屋など、いくつかそれまでに見なかったM.D.Andersonの施設も案内していただきました。

 Fast Trackは、名前にfastとあるくらいだから日本の外来と同じくらいの診察時間かなと思って聞いてみたら、「とても短くて、一人あたり10分か15分くらいしかかけられない。」と言われてしまい、日本では3分診療とか5分診療とかと言われているという話はあまりにかけ離れていて言えませんでした。

 よく日本の医療の質は、WHOなどのデータでは一番良いという話も聞いたことがありますが、それはある一面を見て比較しているにすぎず、例えば患者さんの満足度などの統計を取ったら、かなり低いかもしれないなと思いました。
 アメリカの医療の影の部分について話を聞いたこともありますが、やはり光の部分に関しては見習うべきことがたくさんあるようです。

 以上が見学5日目の大体の内容です。
 もしよろしければ、コメント等いただければ幸いです。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
佐治重衡(SMU, Med Oncol) 2010/04/14
ありがとうございました。
NPの役割くわしく説明ありがとうございました。
たぶん、日本でいう医師2,3年目に近いレベルなのではないかと思います。ある分野ではそれ以上かもしれません。

日本でもadvanced nurse practitioner (ANP) の導入が議論になっていますが、村上君なりの期待するAPN像をもってもらうといいと思います。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
村上 紘一 (慶應義塾大学医学部学生) 2010/04/14
佐治先生

 コメントをくださり、ありがとうございます。

 Nurse Practitionerの方々が、資格を取得して現場に出る前にどのような教育を受けてこられたかについては調べていないので分からないのですが、現場に出て何年も同じ分野で仕事をされていれば、おそらく日本の2年目、3年目の先生よりも優れた部分もたくさん持っているのではないかと感じました。
 現場に出てから、医師とのコミュニケーションの中でさらに理解は深まっているだろうと思いますので。

 この間、雑誌で見た範囲では、Nurse Practitionerになるといまの看護師さんたちよりも単に出来る手技が増えるだけのようにも見えたのですが、いま日本はどういう方向で動いているのでしょうか。
 日本の場合、まずは医師と看護師が意見を対等な立場で自由に交換しあえるような環境を作ることが大事かと思いますが、自分なりにAdvanced Nurse Practitionerについてまた考えてみます。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
津川浩一郎(聖路加国際病院) 2010/04/14
 こんにちは。聖路加国際病院乳腺外科の津川といいます。詳細なレポートをありがとうございます。
 私は2004年にMDACCに見学に行きました。Nurse Practitionerに関してほぼ同じ感想を持ちました。そこから医師になる人も少数ですがいらっしゃるようですね。ただレジデント生活が厳しいので私はならない、と見学についたANPの方はおっしゃっていましたが。また、それぞれの職種にAssistantがついており、Professionalが効率的に仕事をできるよう、工夫されていました。
 日本の医師不足、看護師不足の解消の処方箋のひとつはここにあると思います。先生のこれまでのご意見に私も賛成です。日本にどのように導入するか、システムを作っていくか、真剣に議論しなければいけない時に来ていますね。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
村上 紘一 (慶應義塾大学医学部学生) 2010/04/14
津川先生

 コメントをいただきまして、ありがとうございます。

 個人的には、医学部の定員を増やして一人前の医者を15年以上かけて育てるよりも、MDAのように医者が専門的な仕事に集中できる環境を整備したり、女性医師の職場復帰を援助したりといった方向性の方が、負担が少ないのではないかと思います。もちろん医者を増やすことも悪いことではないと思いますが。

 また、科ごとに医師の数にばらつきがある点に関しても、アメリカのようにある程度強制的に振り分ける仕組みにしても良いのではないかと思っています。

 いずれにしても、現在の改革の方向性は現場の声が生かされているようにはあまり思えないので、積極的に医療者側から意見を発信していくことが重要だろうと思います。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
大西卓磨 (慶應義塾大学6年) 2010/04/30
コメントが遅くなって申し訳ないです。

とても密度の濃い一週間を過ごしたんですね。一日一日色々なことを考えて実習していた様子が伝わってきました。
私が見学したときは外来を見ることは出来なかったので羨ましいです。

日本では今、医師増員やナースプラクティショナーの導入、家庭医療専門医の設立などが議論に上がり、大きな変革期にあります(何も変わらない可能性もありますが)。
しかし、それはアメリカも同じで、アメリカは保険制度に大きな改革が起きています。

日本だけでなく、どの国の医療も問題を抱えているのかもしれません。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
村上紘一 (慶應義塾大学医学部6年) 2010/05/01
コメントありがとうございます。
この場の空気に合わせて、丁寧目な表現で書きます。

日本医師会の姿勢を新聞やニュースなどで見た限り、重要な議題にはほぼ全て反対で、今のところ、どうも変化が起こりそうな気配を感じることが出来ていません。

ナースプラクティショナー導入の提案に対して医師会が反対している状況というのは、本来であれば患者さんのために医療の質を向上させていくという同じ目標に向かうはずの2つの団体が同じVisionを共有できていないことを分かりやすく示している例だと思います。これも、職種間のコミュニケーションが不十分であるという問題につながっているように思います。

これだけ医療崩壊が叫ばれながら、医学部の定員を増やす以外にあまり目立った変化がないのが現状でしょうか。

そういった現状の中で、一番下の立場にいる私たちに大切なのは、現在のシステムに入って働き始めても、常に外からの視点を忘れずに持ち続け、それを情報として発信していくということでしょうか。

アメリカも、保険制度改革によってアクセスの自由度が上がると、少し日本の現状に近づいて診療時間を短くせざるを得なくなるなどの変化が起こるかもしれないですね。
アメリカの医療制度について勉強不足なので、詳しいことはよく分かりませんが。

もちろん、世界のどこを探しても一長一短あって、完璧な医療制度というものは存在しないと思います。
大切なのは、当たり前の話ですが、完璧ではないということを認識し、常に改善する努力を継続していくことだろうと思います。
私たち若い世代が、医療界をポジティヴな方向に変えていく原動力になれればと思っています。
Re:MDA見学(3/29/2010-4/2/2010)
浅川美奈 (慶応大学病院) 2010/12/03
初めまして。実は私は医療関係者ではありませんが、現在父親が肺がんで、慶応義塾大学病院の呼吸器内科、腫瘍センターで化学療法の治療を受けています。

PCでMDアンダーソンガンセンターを調べていたところ、村上さんのMDA見学の記事を読み、大変感銘しました。

私は、以前夫の仕事の関係で、テネシー州に住み、大学病院で、メディカルサポート(日本語、中国語、スペイン語の通訳等)をしていました。

米国と日本の医療体制は、明らかに異なります。今回、父はCT生検と抗がん治療のため、2度入院しましたが、とにかく医師や看護師の方が忙しそうで、いろいろ聞きたいことがあっても遠慮せざるを得ないことが多くありました。(でも、さすが慶応義塾大学病院、医療スタッフの方の細かい心遣いは他の病院とは違います)

さて、私の在米時の友人でEklund源稚子先生という方がいるのですが、彼女はNashvilleのVanderbilt大学病院でナースプラクティショナー(NP)として勤務する傍ら、日本に置けるNP導入の為に活動をしています。

11月30日に東京医療保健大学の主催で特別講演を行うなどの予定で2週間ほど来日していました。テレ朝の特ダネやNHKのNP特集に出演したり、医療誌にも度々掲載されるなど精力的に活動されています。
日本の医学生、看護師の方と関わっている方などNP導入の理解の為の協力を依頼されています。
村上さんのような将来のある医学生の方に、是非彼女の活動の支援をお願いしたいと思います。

また、私の夫は現在メキシコに単身で赴任しているのですが、来月ヒューストン経由でメキシコに行く予定があるので、MDAの見学をしたいと思い、メ―ルを送ったところです。
化学療法の為、毎週水曜日に父に付き添って、慶応に通院しているので、病院のどこかで会っているかもしれませんね。

最終学年で大変だと思いますが、頑張って下さいね。