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MDアンダーソンがんセンター見学記
寺田 真由美 (千葉県) 2010/12/18
初めまして。寺田真由美と申します。乳がん4年目のサバイバーです。今回、2010年12月8日~12日にテキサス州で開かれたサンアントニオ乳がんシンポジウムに参加するため、先輩サバイバーの桜井なおみさんと渡米、その前後、計3日間にわたってMDアンダーソンがんセンター(MDACC)を訪ね、施設や日常業務、患者活動などを見学させていただきました。上野先生には貴重な機会をいただいた上に、地元の患者支援者(patient advocate)との交流までアレンジしていただき、心から感謝しています。ありがとうございました。

◆“Making Cancer History”をミッションとする病院
MDACCを訪ねて感じたことは山ほどありますが、もっとも強く感じたのは、病院のかかげるミッション“Making Cancer History”の達成に向けて、すべての職員がベストを尽くし、さまざまな事業が展開されているのだなという点です。長くて恐縮ですが、その一部である「学習センター」と「リサーチ・メディカル・ライブラリー」についてご紹介したいと思います。

◆患者向けの学習センター
「学習センター(Learning Center)」は、外来病棟Mays Clinicのカフェやギフトショップ、患者支援ネットワークの部屋がある2階ほか、院内3カ所にもうけられた、一般向けの図書室です。利用できる図書、オーディオ教材、ビデオは4,000点以上。日本に比べて「闘病記」は少ないのではと感じましたが、各部位のがんの解説書がそろい、がん患者の抱えうる社会的・精神的問題を扱う本も置かれています。子供向けの本のコーナーには、親が乳がんになった子供を対象に、乳がんとはどんな病気で、どんな治療が行われるのかを漫画で解説した本も。また専門的なリファレンス本や注目すべき医学論文をファイルしたバインダーもありました。

図書の多様さ、数の多さにも驚きましたが、何よりすばらしいと感じたのが、司書の存在です。本を眺めていると、「何が知りたいの?」と声をかけてくれて、目的の本・情報を探す手伝いをしてくれます。3カ所のセンターで、図書科学修士や公衆衛生学修士、健康教育スペシャリストなどの肩書きを持つ計8人のスタッフがいるそうです。センターにはPCも置かれていて自由に利用できます。

センターには、がんに関するパンフレットも300点以上並んでいます。NCI(米国立がん研究所)やACS(アメリカがん協会)など、確かな医療情報を提供している大きな組織のものが中心ですが、地元の小さな組織が出しているパンフでも、ニーズがあると思われるものは、内容を吟味した上で棚に並べているということでした。そうした吟味を行ったり、利用者の疑問の解決を手伝ったりするには、医学的知識が欠かせません。センターのスタッフ数名も、サンアントニオの学会に参加していらっしゃいました。がんに関する新刊本の情報も、当然把握。あふれる情報のなか、利用者が情報にまどわされないように的確なアドバイスをくれる案内人と言えるでしょう。同時に、診断直後は動揺のあまり、知りたい情報はあっても知りたくない情報はシャットアウトしたくなりがちです。そのあたりもよくご存じで、親切心から大量の情報を提供して患者さんや家族を圧倒することがないように、気を配っているとのことでした。

◆研究者向けのリサーチ・メディカル・ライブラリー
EBMについて、患者さんや患者支援者向けの学習素材はないかと学習センターのスタッフに尋ねたところ紹介されたのが、MDACCのPickens Tower21階にあるリサーチ・メディカル・ライブラリーです。ここは研究者向けの図書室ですが、一般の患者・患者支援者も利用できるそうです。
蔵書数は75,000冊以上。リファレンス本のほか、各医学雑誌のバックナンバーも並んでいましたが、医学文献のデジタル化が進むなか、オンラインで利用できるものは紙媒体の図書を置くのをやめ、スペースがあいた分、PCの設置を進めているとのことでした。これらのPCからは購読許可が必要な各医学雑誌やコクランライブラリーの文献にもアクセスできます(うらやましい!)。
ここの副所長の女性にアポを取り、EBMやがんの科学の基礎など、少し専門的な知識を含めた患者教育について知りたいとお伝えしておいたところ、参考になりそうなサイトを多数ピックアップして教えてくださいました。私のような素人でも参加できる講義コースや、翻訳許諾をとって日本語化したいようなサイトもあります。
彼女はMSIS(情報システム科学修士)の肩書きを持ち、従来の紙媒体の図書に加えて、ネット上の情報についても利用者に助言を与えてくれる心強い存在です。日本の病院にこうした司書がいるかどうか、分かりません。医学的知識や英語の能力も必要で、誰でもできる仕事ではないでしょうし、人件費をどう確保するかという問題もあるでしょうが、患者が情報の海でおぼれることのないよう、ぜひともいてほしい助っ人だと思いました。

◆日本の患者支援活動が今後目指すべきこと
MDACCでは、ほかにも多くの方から多くのことを教えていただきました。医療従事者ではない私たちのような人間が訪ねて行っても、できる限り情報を提供してくださるのは、冒頭にも書いたとおり、“Making Cancer History”をミッションとしてかかげているからでしょう。同時に、がんを制圧するには患者支援者の頑張りも欠かせないと認識していらっしゃるからこそ、お忙しいなか、皆さん嫌な顔もせずに協力してくださったのだと思いました。

患者支援者として、患者の立場で、何ができるのか、何をすべきなのか? 医学専門の司書を増やしてほしいと訴えることも1つでしょう。また、がん研究の支援もあげられるのではないでしょうか。上野先生を含め、今世界中で大勢の研究者によってがん制圧のため研究が日夜進められています。その研究の成果を一番待ちわびているのは、ほかならぬ患者・患者支援者のはず。「がんの制圧」と「みんなが幸せに生きられる社会」づくりを目指すならば、私たちは素人なりにもっとがんの科学を学び、研究を後押しできる存在にならなければとあらためて痛感しました。

MDACCはアメリカでもトップクラスの大病院です。そこで行われている様々な画期的取り組みを、そのまま日本でマネしようというのはムリな話かもしれません。でも、上野先生がよくおっしゃっている通り、アメリカも何十年にわたって試行錯誤を続けてきた結果、今に至っています。今の日本で私たちにできること、すべきことを探りつつ、同じ目標に向かって、共に歩んでいきたい、そう強く感じました。

   

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