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治療とその選択
Ki-67について
saitou(東京都) 2016/11/20
Ki-67は悪性度と正の相関があるとの文献を読みました。

1)Ki-67は良性の組織にも出現しますか?
2)非浸潤癌においても出現するのでしょうか?

   
Re:Ki-67について
S(東京都) 2016/11/23
saitouさま、お返事が遅くなり申し訳ありません。病理医をしていますSと申します。
質問頂いた内容からのお返事は以下になります。

1)Ki-67は良性の組織にも出現しますか?

ご存知かもしれませんが、Ki-67(MIB-1)は細胞が増殖しようとしている時に出るタンパクとして知られています。細胞が増える勢いを反映していると言えます。通常は、生検や手術などでとられた病理組織検体に対して免疫組織化学染色というものを行って、染まってくる細胞の割合を判定しています。
良性の腫瘍や正常の組織でも Ki-67 陽性の細胞がみられることはあり、必ずしも悪性の疾患でしかみられないというものではありません。

対象とする臓器や疾患によって、その結果の判定の仕方が異なります。また悪性の疾患ではKi-67が染まってくる細胞の割合が悪性度と関連すると言われるものもあります。

2)非浸潤癌においても出現するのでしょうか?

種類によって程度の差はありますが、一定の割合で染まってくる細胞が出ることが想定されます。


繰り返しになりますが、想定する臓器や疾患によりその結果のとらえ方が変わってくる検査です。
もしも具体的な臓器や疾患についてのご質問や、不明な点があるようでしたら再度投稿いただけたらと思います。
どうぞよろしくお願い致します。
Re:Ki-67について
saitou(東京都) 2016/11/23
S様ご回答ありがとうございます。
前回はどの程度まで質問していいのかわからず、大まかに書かせていただきました。
左胸上部4mm-6mmの乳管内乳頭腫?で1年経過観察しサイズは変化していません。超音波の画像もほぼ乳管内乳頭腫だろうが断定はできないということで念のため針生検を希望したところ、以下のようになりました。
「病理組織診断
INTRADUCTAL PAPILLARY LESION, SUSPICIOUS OF NON-INVASIVE DUCTAL
CARCINOMA(DUCTAL CARCINOMA IN SITU), left mammary gland, core needle biopsy」
「病理組織学的所見
類円形~不整円形に腫大した核を持つ異型細胞が乳管内に乳頭状あるいは充実性ないし融合状腺管を形成しながら増殖生しています。
所謂、intraductal papillary lesionに相当の病変で、non-invasive ductal carcinoma(ductal carcinoma in situ)とintraductal papillomaの鑑別が難しい病変です。
免疫組織化学検査を実施したところ、CD10:(+),P63(+)の筋上皮細胞の分布papillomaに相当の部分と、筋上皮細胞が減少あるいは殆ど消失したnon invasive ductal carcinoma(ductal carcinoma in situ)を疑わせる部分が見られます。また、後者の部分ではKi67陽性率も上昇しています。
Intraductal papillary lesion, susupicious of non-invasive ductal carcinoma(ductal carcinoma in situ)と記述的に評価します。」
この結果、病理からは外科的生検の勧めがあったのですが担当医は一年間形が変化していないのでさらに経過観察をするという方針が示されました。
そこで、Ki67について検索していて、予後不良、悪性度との相関が高い。などの記述を見て不安になり投稿させていただいた次第です。
もし悪性を疑わせる病理所見なら、乳腺外科の担当医はなぜ経過観察で済ませようとしているのか、質問しても、「もし手術して良性だったら?」という答えでした。

病理所見のとらえ方などについてお教え願えれば幸いです。
Re:Ki-67について
S(東京都) 2016/11/27
saitou さま、お返事ありがとうございます。詳細に記載いただきましたので、質問の意味がよく理解できました。
可能な範囲でお答えしようと思います。
一般的なことの解説ですが、良性腫瘍である乳管内乳頭腫(intraductal papilloma)と悪性腫瘍である非浸潤性乳管癌(non-invasive ductal carcinoma, ductal carcinoma in situ=DCIS とも言います)が一緒に存在することがあります。その場合、乳管内乳頭腫と非浸潤性乳管癌とを見分けるのがやや難しいことがあり、「鑑別が難しい」と表現されます。そして saitouさまに記載いただいた報告書の記載にもそのようなことが書いてあります。それを見極めるための一助として免疫組織化学染色を使用するわけなのですが、今回も p63やCD10で検討されているように筋上皮細胞の減少や消失が非浸潤性乳管癌の一つの指標となると言われています。

今回は Ki-67 の陽性率についても検討されているのですが、「良性である乳管内乳頭腫の部分」と「非浸潤性乳管癌が疑わしい部分」を比べて、Ki-67 の陽性率の上昇がみられると記載されています。良性の病変に比べて悪性の病変の方が、一般的に Ki-67 が高いということを想定しているもので、あくまでも良性の組織と疑わしいところを比較をしているわけです。注意が必要なのは、ここでの Ki-67 の陽性率の上昇は一般に乳癌で言われているような悪性の中での比較において「悪性度や予後との相関がある」というKi-67 の陽性率の上昇とは意味合いが異なるものだということです。

病理医の立場からは、一般的に悪性が否定できない病変が見られた場合には、もう少し大きな組織を取ってもらって検索(外科的生検)することをお勧めすることになってしまいます。ですが残念ながら、大きな組織を取ったからといって必ずしも白黒はっきりつくとは限りません。非浸潤性乳管癌には悪性度の強いものからそうでもないものまであり、特に悪性度の低いものに関しては、体の中にあっても悪さをしないと言われているようなものもありますので、しばらく様子をみる=経過観察という方針も当然考えられます。一方で、外科的生検をするとなると針生検のようにはいきませんので、”手術”が必要になります。その場合、体に傷ができるなどのデメリットも生じてきます。

当然のことながら、担当の先生は想定される病変について、それぞれの治療方針のメリットとデメリットを天秤にかけて方針を決定されたものと思われます。ですが、saitouさんご自身のお体のことですので、悪性の可能性があるということについて不安を感じていらっしゃることをお伝えになり、saitouさん自身が納得ができるように、治療方針のメリットとデメリットについてもう一度よくお話をされてみても良いのかもしれません。

また、セカンドオピニオンも一つの選択肢になり得るかとは思います。病理診断についてもセカンドオピニオンを実施している施設もありますので、そういった施設でのご相談も一つの方法かとは考えます。

長くなってしまい、申し訳ありません。ご不明な点などあればまたご質問ください。
Re:Ki-67について
saitou(東京都) 2016/11/27
S様ご丁寧にご回答賜り、ありがとうございます。

>>Ki-67 の陽性率の上昇は一般に乳癌で言われているような悪性の中での比較において「悪性度や予後との相関がある」というKi-67 の陽性率の上昇とは意味合いが異なるものだということです。
とのこと、納得できました。

主治医に免疫組織化学染色検査の結果についてのもう少し詳しい説明とセカンドオピニオンを希望しましたところ、直接は診察を受けることができず看護師の面談となりました。そして、「今の状態で更なる検査をすることは出来かねるので、早急な加療を希望するのなら紹介状を書くので他院を探してくるよう」言われました。
現在の病院も2院目なので、さらに探すといわれても、いったいどうしたらいいのか悩んだのですが、前回最初に病院を探した時のリストから通院できそうな病院が見つかり、転院の運びとなりました。

そこで、参考までにもうすこしお伺いしてもよろしいでしょうか?
1)p63やCD10について
>>p63やCD10で検討されているように筋上皮細胞の減少や消失が非浸潤性乳管癌の一つの指標となると言われています。

とのことですが、2008年ころの文献によれば筋上皮細胞がDICSが浸潤して行かないバリアにもなると書かれていました。
そして、筋上皮細胞を守る薬があればDICSの浸潤化を食い止められるかも。と書いてあったのですが、2016年の時点での
治療方法として筋上皮細胞を守る薬などは開発されていますか?

2)外科的生検の術式について
外科的生検とは、一般的に「葉切除」となりますか?
その時、造影剤で乳管の広がりを調べると思いますが、MRIの撮影時には麻酔をしないのが原則ですか?

現在の担当医は、問診はあまりしてくれないタイプの先生だったのですが、私の胸を見て「大きそうだし、検査は痛いですよ」
とおっしゃっていました。その点も詳しくは聞き返せなかったのですが、「痛い」と転移と比べれば痛みは我慢できます。
先生はなんとなく私の診療をするのを嫌がっているような印象を受けました。(あくまで個人的な感想です)
胸の大きさ(客観的に自分の胸の大きさがどういった位置にあるのか把握していません)と手術の困難さは関係がありますか?
外科的生検で悪性となった場合、すでに葉切除をしていても広範囲に再手術となるのでしょうか?

3)DICSのサブタイプについて
>>大きな組織を取ったからといって必ずしも白黒はっきりつくとは限りません。非浸潤性乳管癌には悪性度の強いものからそうでもないものまであり、特に悪性度の低いものに関しては、体の中にあっても悪さをしないと言われているようなものもありますので、しばらく様子をみる=経過観察という方針も当然考えられます。

とのことですが、悪さをしないといわれているタイプは経過観察をしていても変化があった時点の治療で間に合うレベルの進展スピードとなりますか?
外科的生検をすればDICSのサブタイプを知ることができますか?
DICSでも放置すれば浸潤癌になるらしいのですが、経過観察していて浸潤癌に変化してしまう前に止める目安などありますか?

4)>>病理診断についてもセカンドオピニオンを実施している施設もあります
と教えていただきました。
病理診断においては「疑い」と記載するのは90%の確度を持つとき。と読んだことがあります。
一応検体のプレパラートは借り出していますので、返却前に病理診断のセカンドオピニオンを受けてみるのも一つの方法でしょうか?

以上細かい質問ばかりで申し訳ありません。
現時点での一般的な事実としてのお答えをいただけますればと存じます。
Re:Ki-67について
Sy(福岡県) 2016/12/01
saitou様、はじめまして。Syと申します。
回答の返信にお時間をいただき申し訳ございませんでした。
チームオンコロジーのメンバーで話し合いをさせていただいた内容を投稿させていただきます。

1)p63やCD10について
>2008年ころの文献によれば筋上皮細胞がDICSが浸潤して行かないバリアにもなると書かれていました。そして、筋上皮細胞を守る薬があればDICSの浸潤化を食い止められるかも。と書いてあったのですが、2016年の時点での治療方法として筋上皮細胞を守る薬などは開発されていますか?

「筋上皮細胞を守る薬」につきまして論文など、可能な範囲で調べさせていただきましたが、少なくとも国内で保険適用になっているものや臨床試験として使用されているものはないと思われます。saitou様が御指摘のものと異なる可能性もございますので、主治医の先生にお尋ねされてみてもよいかと思います。

2)外科的生検の術式について
>外科的生検とは、一般的に「葉切除」となりますか?
その時、造影剤で乳管の広がりを調べると思いますが、MRIの撮影時には麻酔をしないのが原則ですか?

「外科的生検」に関してですが、一般的には評価すべき部分 (ここでは腫瘍と呼ぶことにいたします) の摘出、すなわち、「腫瘍摘出」をすることが多いです。主治医の先生に図を用いた説明を依頼するとより詳しくご理解いただけるものと思います。

画像検査に関して、順番が前後しますが、まず MRI 検査についてお答えいたします。MRIの撮影時には鎮静剤(眠くなる薬)などは使用せず、起きた状態で検査を行うのが一般的です。
「造影剤で乳管の広がりを調べる」検査は乳管造影といいます。MRI検査とは異なり、乳管の中に造影剤を注入した後にレントゲンで撮影を行う検査になります。対象となる患者さんは乳頭から赤い液体(血性分泌物)や黄色い液体(黄色分泌物)が出る方になります。それ以外の患者さんで行うことは一般的ではありません。

3)DICSのサブタイプについて
>悪さをしないといわれているタイプは経過観察をしていても変化があった時点の治療で間に合うレベルの進展スピードとなりますか?外科的生検をすればDICSのサブタイプを知ることができますか?DICSでも放置すれば浸潤癌になるらしいのですが、経過観察していて浸潤癌に変化してしまう前に止める目安などありますか?

残念ながら、この件に関して明確な答えを示す科学的根拠(エビデンス)は国内外を含めて今のところございません。ただし、乳腺診療を専門にする医療者の中で、「経過をみていくとDCISから浸潤癌に移行するタイプのもの」 と「経過をみていってもDCISから浸潤癌へ移行することはないタイプのもの」 とがそれぞれ存在すると考えられています。またDCISについては正確な意味でのサブタイプ分類はございません。エストロゲンレセプター (ER) やプロゲステロンレセプター (PgR)、ハーツー(HER2) などの特徴についてはDCISから浸潤癌に移行する際に変化することもあります。再度、主治医にご相談いただくか、セカンドオピニオンの利用をご検討していただいてもよいかと思います。

4)>>病理診断についてもセカンドオピニオンを実施している施設もあります
と教えていただきました。
病理診断においては「疑い」と記載するのは90%の確度を持つとき。と読んだことがあります。
一応検体のプレパラートは借り出していますので、返却前に病理診断のセカンドオピニオンを受けてみるのも一つの方法でしょうか?

こちらにつきましては直接の回答にならず申し訳ございません(「セカンドオピニオンを受けてみるのも一つの方法かどうか?」の回答自体がセカンドオピニオンになってしまいます)。

私どもの方からsaitou様がよりよい治療を受けられますよう願いまして以下のようにコメントを申し上げます。

非常に深く病状のことをご理解されておられ、一同感服いたしております。

今回お伺いした状況につきましては、乳頭腫とDCISの混在の有無に関することやDCISであった場合などの治療方針につきまして、完全に定まったものがないという点もご不安の一要素と拝察いたします。
かかりつけ医療機関での説明でさらに残るご質問につきましては、セカンドピニオンの利用がよいかもしれません。病院によっては、乳腺外科などの治療担当医のセカンドオピニオンに加えて病理医のセカンドオピニオンを併設している施設があります。病理医のセカンドオピニオンとは、既に紹介元の病院(かかりつけ医療機関)で採取・作製された病理標本を借用し、セカンドオピニオン先の病理医が病理標本を再評価するというものです。セカンドオピニオン先の病理診断の結果の説明は病理医自身が患者さんにするのではなく、セカンドオピニオン先の治療担当医(乳腺外科医など)が病理診断書などをもとにして代わりに行うことが一般的です。

今回、ご投稿いただきました乳管乳頭腫とDCISの併存の評価については、病理診断上、微妙な部分もあり、病理医によって表現の仕方が変わることがあります(具体的な内容についてはセカンドオピニオンに該当してしまい、この掲示板でお伝えできる範囲をこえてしまいます)。
そして、DCISの治療の考え方についても上記の通り複雑であり、まずは現在の担当医とface to faceで治療選択による利益・不利益(リスク・ベネフィット)のバランスを考えながら話を進めていくことが重要と考えられます。セカンドオピニオンを利用する場合も同様で、病理所見をもとに別の施設の乳腺外科ならばどういう方針を取るかということを細かい部分まで尋ねられることは意味のあることだと思います。

もし、セカンドオピニオンについて前向きにお考えになる場合は、かかりつけ医療機関内に設置されている「がん相談支援センター」の利用をご検討くださいませ。「乳腺診療のセカンドオピニオン+病理のセカンドオピニオン」を行っている医療機関を探すお手伝いをしてくれると思います。現在の医療機関を探すに当たり、リストをご作成されたとのことですが、そのリストをご持参されると病院探しにおいてさらに役立つものと思います。

そして、もし治療方針の決定に関しておひとりで抱えておられるようでしたら、ご家族など信頼できる方にご相談し、病院での説明に同席していただくこともよいと思います。そうすることで、気持ちも落ち着きますし、話の行き違いを防ぐことにもつながります。

また、saitou様の抱えている不安や疑問を主治医と共有する(医療者からの説明を待つだけではなく自分から質問をしていく姿勢が大切である)ことが重要だと思います。不安や疑問の具体的な内容を主治医と共有することで、疑問の答えだけでなく、主治医がsaitou様の状況をどう考えているかを確認できるかもしれません。結果として、主治医からもsaitou様の関心やご理解に合わせた説明が期待できるものと思います。そういったやりとりの積み重ねで主治医との間に信頼関係が構築されていくものと思います。

末筆になりましたがsaitou様にとって納得のできる治療が受けられるようになりますことを祈念しております。

記事内容を変更することはできません。記述を修正したい場合はコメント欄を使って補足・訂正を行ってください。