コラム/エッセイ

チームBの役割

Role for Team B

Vol.04

「Team B」ケアの根拠(1) コミュニケーション

Team Bケアが医療に不可欠である根拠について、2回にわたって検討してみよう。第1回目は「コミュニケーション」についてである。

病状説明や検査結果の報告に際し、医療者は、客観的なデータに基づいて正確な情報(インフォメーション)のみを伝えようとする。しかし、この目論見はほぼ確実に失敗する。なぜなら、人間のコミュニケーションは、常に情報(インフォメーション)と同時に気持(メッセージ)を伝えているからである。気持、感情、情緒は、人間の中で常に活動をしている。気持を伝えるつもりなど毛頭なくても、それがそこにあることは事実である。

科学的な作業や役割を担った仕事をしている際には、それを行う者(科学者・公務員・事務員など)は、気持や感情を表現しないことになっている。また、社会は原則として、彼ら彼女らとコミュニケーションを行う者(同僚科学者、官僚、顧客など)は、その際必ず伝わってくる気持、感情、情緒は無視し、仕事に影響を与えないようにする、という暗黙の約束事を持っている。だが実際は、このような場面においても問題が起こるとすると、情報の正確さよりも、コミュニケーターたちの間の気持、感情、情緒が原因となっていることが多いように思う。

図:「人間のコミュニケーション」インフォメーション+メッセージ

医療者が患者に、客観的・合理的・科学的に(Team A として)関わろうとしている時も、実は、一人一人の背後に情緒が動いている。それが患者に伝わる。万が一上手に自分の気持を隠すことができたとしても、患者は医療者の気持を勝手に想像し、イメージを作り上げてしまう。

いずれにしても、インフォメーションとメッセージは、相手がそれらを正確に受け取るかどうかは別として、セットで伝わって行く。たとえ客観的な情報(インフォメーション)伝達の場であっても、受け手は送り手から飛んで来たメッセージに反応し、自分の中で、必ず何らかの感情で反応する。多くの状況では、これらの感情的反応は、送り手にフィードバックされることはないが、受け手の中に反応が起こること自体は不可避である。

実は、受け手自身、自分の中に沸き起こってくる感情反応の内容について無自覚であることが多い。しかし、コミュニケーションを重ねる中で、感情反応は、意識の背後で、増幅されたり修正されたりしながら、常にアクティブな状態にある。このアクティブな感情反応は、単に患者の医療者や医療機関に向けての印象に影響を与えるだけではない。次回検討するように、まったく予想できない脳内シナプスの複雑な形成プロセスを通じて、病気自体に対する患者の気持や、ケアを受けること自体、さらには自己価値認識にまで影響を及ぼす可能性がある。

これまで医療は、自分たちが引き起こしている場合の多い、患者の中のこのアクティブな感情反応を、本気で日常のケアの対象とはしてこなかった。アクティブな感情反応にしたがった行動をとる患者を、治療への協力態度が悪いと評価し、また、正確な情報を再度伝える、などといったインフォメーション・レベルでの対応で、そのような患者との関係改善を図ろうと努力してきた。しかし、それらは問題の本質をとらえきれていない。

Team B は、患者の感情反応、そして患者の内的世界へのケアを行う。人間関係や状況について、患者が主観的にどう理解しているのかを、患者自身が自覚していない気持を明らかにすることも含めてケアして行く。「傾聴」「ナラティブ」という手法が必要とされる。

(2007年4月執筆)

伊藤 高章
伊藤 高章
1956年生まれ、上智大学大学院実践宗教学研究科教授、同大学グリーフケア研究所副所長
日本スピリチュアルケア学会事務局長
2002-3年度スタンフォード大学病院スピリチュアルケア部スーパーヴァイザー・イン・レジデンス
専門は、臨床スピリチュアルケア、国際社会福祉論、キリスト教史