コラム/エッセイ

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メディカルスタッフが
「顔の見える職種」になるために

Effective communication makes for a good team and good results for patients.

Vol.08

言語聴覚士: 「食べる」「話す」などを改善し人間らしさを取り戻す

安藤 牧子(言語聴覚士)
安藤 牧子(言語聴覚士)
慶應義塾大学病院リハビリテーション科 言語聴覚士
おもに、がん患者のリハビリを担当。大学を卒業後、会社員を経験してから言語聴覚士の資格を取得し働く。

言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist)とは

食べる・飲み込むといった摂食・嚥下障害や失語症、高次脳機能障害、構音・発声障害といったコミュニケーション障害の機能改善・維持をサポートする療法士です。人として「食事やコミュニケーションを楽しむ」ことは不可欠なことです。嚥下障害やコミュニケーション障害をサポートするこの職種は「人の尊厳を支える」という非常に重要な役割を担っていると考えています。

しかし、リハビリ関連職種である理学療法士や作業療法士に比べ有資格者は少なく、2009年4月現在(厚労省調べ)、1万5696名が全国で言語聴覚士として患者さんのために日々奮闘しています。

がん患者が受ける言語聴覚療法

1.摂食・嚥下訓練

頭頸部がんの術後は、舌や飲み込みに重要な役割を果たす咽頭の機能が失われることにより嚥下障害を生じます。リハビリでは、残存機能を最大限に生かすような運動訓練を行います。飲み方の工夫(姿勢、食事形態の工夫)について、ビデオ嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査で検索して、いろいろな方法を組み合わせて誤嚥せずに栄養摂取ができるようアプローチします。

また、少し訓練に時間がかかりそうな場合は、経管チューブを自分で飲み込んで食道や胃まで留置して栄養剤を注入する方法(間歇的経管栄養法)を習得してもらい、早期退院を実現します。社員の給料日に何としても退院したいと言われた患者さんはこの方法で術後1か月以内に退院され、無事、給料を手渡しされました。外来で訓練も順調に進み食事が食べられるようになりましたが、数か月後に他の臓器にがんが見つかり、しばらくして永眠されました。リハビリによって少しでも長く自宅で過ごすお手伝いができたのではと思っています。

2.代用音声訓練

喉頭がんで喉頭全摘術を受けると、音声を失います。しかし、リハビリによって「第2の声」を習得することができ、我々はそのお手伝いをします。一つは電気式人工喉頭を使用する訓練。これは機器の使い方と、頸部に充てる方向をアドバイスしていき、入院中に使用できるようにしています。

もう一つは食道発声です。これは、簡単に言うとゲップを自分でコントロールして、出したい時に出して声の代わりにする方法です。習得の可否には個人差がありますが、より自然な発声が可能となります。

3.高次脳機能訓練

脳腫瘍によって引き起こされる高次脳機能障害の病態はさまざまです。失語症、記憶障害、注意障害、ものごとの段取りがうまくできない遂行機能障害などです。嚥下障害や音声障害に比べて“見えにくい”障害であるため、ご本人、ご家族、スタッフ間での見解が異なって、患者さんに余計にストレスがかかることも少なくありません。

特に失語症の患者さんは、言われたことがなかなか理解できない、言いたいことがあるのにうまく言葉に出来ないことに加え、治療やこれからのことに不安を抱くため心理的負担が多いです。そこで、少しでも意思を伝えやすいように話すだけでなく、文字や絵などを多用してコミュニケーションをとる方法をリハビリで練習していきます。

ただ、腫瘍が徐々に増大している患者さんにはそれも苦痛になることがあります。数年前、練習中に「わからないや、ごめんね」と患者さんに謝らせてしまったことは、今でもとても悔やんでいます。“見えない”障害の難しさだと痛感しています。

今後も、質の高い言語聴覚療法を提供できるよう、日々患者さんに教えてもらいながら臨床に励んでいます。

(2011年8月執筆)

チーム医療推進協議会
チーム医療推進協議会
2009年、チーム医療を推進するとともに、メディカルスタッフの相互交流と社会的認知を高めるために設立された協議会。
病院で働く職能団体16職種、患者会、メディアで構成されている。メディカルスタッフが連携・協働することで、入院や外来通院中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上や、それぞれの人生観を尊重した療養の実現を目指しています。