コラム/エッセイ

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Vol.10

細胞検査士: がん細胞を探すスペシャリスト

小海 志津子(臨床検査技師 / 細胞検査士)
小海 志津子(臨床検査技師 / 細胞検査士)
細胞検査士会島根県支部会 渉外リーダー
島根県がん対策推進協議会予防・検診部会委員
子宮頸がん啓発キャンペーン実行委員会 副会長
島根県内での子宮頸がん啓発活動に、細胞検査士としてのスキルやアイデアを提供している。また、学生の啓発活動支援や人材育成、がんサロンでの講演、事業所での学習会等による、がんの正しい知識の普及活動を続けている。

1.「がん」と「細胞診検査」

がんという病気は、日本だけでなく世界中の人にとって治療が難しい病気のひとつです。世界中の大学や研究機関でたくさんの学者が研究していてその成果のひとつとして、「ヒトの体の中では日々がん細胞が生まれているが、ほとんどは自己免疫によって排除されている。しかし、さまざまな原因(喫煙、紫外線、大気汚染、食品添加物など)でがん細胞が排除されずに大きくなって“がん”と呼ばれる病気となる」ことがわかってきました。

しかし原因は複合的でその完全な解明にはまだまだ時間がかかりそうです。今すぐ私たちにできることは「できるだけ原因を取り除く生活を心がけること」、そして「“がん”を小さいうちに発見すること」です。

がんを見つけるための検査方法はいろいろありますが、細胞診検査もまた“がん”を見つけるための検査方法のひとつです。そして細胞診検査を担当しているのが細胞検査士で、全国に約6,000名います。

2.細胞検査士が「がん」をみつけています!

細胞診検査は、患者様から採取した検体の中のがん細胞の有無を調べる検査です。検体は多種類あり、喀痰や尿、腹水、胸水、乳汁のほかに、腫瘤に針を刺して採取した細胞を検査することもあります。

検査ではまず医師が患者様から検体を採取します。細胞検査士は検体を受け取り、さまざまな処理をして検体中の細胞を塗抹~染色してガラス標本を作製します。つぎに細胞検査士は、ガラス標本上のすべての細胞を隅から隅まで見て病的な細胞を探します。そして病的な細胞があった場合は、細胞診専門医とともに悪性度などを診断し結果を報告します。

人体には様々な臓器があり、それぞれの臓器ごとに正常細胞の形態が異なります。各臓器に発生するがん細胞にもいろいろな種類があるので、それら多種多様な細胞の形態を短時間で正確に識別するには非常に専門的な知識と鍛練が必要です。細胞検査士は、そのような専門的で高いスキルを有するがん細胞の専門家であるとともに、5分間程度で数万個の細胞の中から一個のがん細胞を見つけ出す特殊な技術を有する職人的な技術者集団でもあります。

一方、細胞の採取から結果報告までを円滑におこなうためには、細胞を採取する医師だけでなく関係する看護師等との連携が大切です。また、細胞診断では画像診断等の情報が重要なこともあります。したがって精度の高い検査を患者様に提供するためには、他職種スタッフとの定期的なコミュニケーションが不可欠であり、相互理解とチームワークが重要であると考えています。

3.細胞検査士の抱える問題

細胞診検査は子宮頸がん検診でも行われていますが、がん検診は医療とみなされていません。そのために、検診料金は厳しい低価格競争にさらされています。その影響は細胞検査士の賃金や雇用形態にも影響し、がん検診を支える細胞検査士が不安定な非正規雇用であるという状況が増えています。そのためか若い細胞検査士は減少しています。将来、検診者数が増えても精度の高い検査が円滑に行えるためには、検診制度の改善が求められていると考えます。

4.子宮頸がん検診啓発活動 LOVE49 について

子宮頸がんは近年、20~30歳代の若年女性に増加していますが、検診受診率が低いため発見が遅れ、若くして子宮を失ったり命を落としたりする方が後を絶ちません。

そこで「顕微鏡の前で待っているだけではダメだ!」と危機感を感じた細胞検査士会が、NPO法人子宮頸がんを考える市民の会とともに始めたのが、4月9日の子宮の日におこなうLOVE49子宮頸がん啓発街頭活動です。2011年は全国の約30都道府県で行われました。年を追うごとに行政やがん患者会、婦人科や病理検査課の医師などが参加する社会貢献活動へと成長しつつあります。

5.細胞検査士のプロボノで、「がんの正しい知識」を広めよう!

LOVE49街頭活動を通して、いまの日本人には「がんの正しい知識が圧倒的に不足している!」と気づいた細胞検査士たちは、各地でがん検診の学習会を始めています。またLOVE49で一緒に活動したことがきっかけとなり、行政や患者会など複数の組織と協働して啓発活動をする動きもあります。

日本で社会貢献といえば時間を提供するボランティア、お金を提供する寄付が知られていますが、欧米にはスキルを提供する「プロボノ」が定着し社会問題のいくつかを解決しています。細胞検査士もまた、行政など他組織のおこなうがん啓発活動にその専門的な知識や経験を提供することで、国民にがんの正しい知識を伝えるお手伝いができます。

啓発活動に専門的な知識を提供することで検診受診者を増やすこと、そして「がんの患者さまやがんに対する偏見をなくすこと」も、がん細胞のスペシャリストとしての新たな使命と考えています。

(2011年10月執筆)

チーム医療推進協議会
チーム医療推進協議会
2009年、チーム医療を推進するとともに、メディカルスタッフの相互交流と社会的認知を高めるために設立された協議会。
病院で働く職能団体16職種、患者会、メディアで構成されている。メディカルスタッフが連携・協働することで、入院や外来通院中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上や、それぞれの人生観を尊重した療養の実現を目指しています。