コラム/エッセイ

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Vol.16

理学療法士: 「動けない」と諦めていませんか?できることはきっとあるはずです

高倉 保幸(理学療法士)
高倉 保幸(理学療法士)
埼玉医科大学保健医療学部教授
1963年生まれ、保健医療学博士。専門は、がん理学療法、高次脳機能障害、義肢装具学など。現在、がん理学療法の質の向上と普及を目的に、がんのリハビリテーション研修会などの様々な卒前・卒後教育活動を展開中。

がんの方の理学療法を始めようとすると、「動くと体が痛い」「動くのが辛い」「骨折の危険があるから歩いてはいけないと言われた」などと諦めてしまっている方が多くいらっしゃいます。あるいは、ご本人は受けたいと思っていても周りの医師や看護師が「無理だろう」と諦めてしまっている場合も多くみられます。

確かに、理学療法では骨を強くすることは難しいですし、どんなに頑張っても歩けない人もいます。でも、実際には過小評価から「できる」ことも「できない」と諦めてしまっていることが少なくありません。

1.リハビリテーションでは、「機能回復」だけではなく「再適応」が重要!

リハビリテーションというと、「機能回復」を目的とした「訓練」だと思っている方が多くいらっしゃいます。そのため、リハビリテーションを担う専門職種である理学療法士が行う理学療法を「機能回復訓練」だと捉えてしまうと、がんが治っていない状態では「効果があがりそうもない」「辛いことはしたくない」といった考えに陥ってしまいます。

しかし、リハビリテーションは「機能回復」だけではありません。身体機能(障害)を治すことだけでなく、障害を持ちながらも代償機能や環境を整えることで、できることを増やしていくという「再適応」も非常に大切なリハビリテーションの役割となります。

2.実際にどのようなことを行うの?

骨転移によって骨が折れそうであれば、骨に負担のかからない体の動かし方を覚えるお手伝いをします。腰椎にかかる負荷は座位よりも立位で小さくなります。立位では歩行器を使うと腰椎の負荷は著しく減少します。従って、腰椎に対する負荷が大きい座位が取れないからといって歩行器での歩行ができないとは限りません。このような時には、側臥位から腹臥位になるようにしながら座位を介さずにベッドの端に立ち上がり、歩行器を使うことで歩けるようになる人がいます。

胸水の貯留が強く拘束性肺障害を起こしている人では、呼吸が苦しくても息を大きく吸うことができません。このような人では息を大きく吐くことで換気量が増え、楽に体を動かすことを考えます。今まで数メートル先のトイレまで行くのがやっとだったという人が、呼吸の方法を覚えることで数百メートルの歩行ができるようになる人もいます。人は苦しいと息を大きく吸おうとしますが、息を大きく吐くことはなかなか思いつかないものです。

低栄養で食事を促しても食事が取れない方が多くいらっしゃいます。そのような方では、適度な運動を少し行うと食事量が増えることがあります。疲れるような運動では効果がありません。運動をした後は、体が軽くなるような自動運動と他動運動を組み合わせた「ストレッチング」が効果を示すことが良くあります。

3.どうしたら少しでも楽に動けるようになるか、理学療法士と一緒に考えていきましょう

多くの可能性を持つ理学療法ですが、がん患者を対象とした理学療法は2010年にようやく診療報酬の算定ができるようになったばかりです。まだまだ理学療法士に対する卒前・卒後の教育は十分ではありませんし、がん患者のリハビリ経験がある理学療法士は数少ないのが現状です。

それでも、様々な障害を持つ人達を対象として培ってきた理学療法は、がん患者に応用できることも少なくないはずです。「機能回復」は無理だと思っても諦めず、是非お近くの理学療法士に声をかけて下さい。様々な知恵を持つ他職種の皆さんの知恵をお借りしながら、がんを持つ方に関わることができれば、きっとお役に立てることは多いと信じています。

(2012年4月執筆)

チーム医療推進協議会
チーム医療推進協議会
2009年、チーム医療を推進するとともに、メディカルスタッフの相互交流と社会的認知を高めるために設立された協議会。
病院で働く職能団体16職種、患者会、メディアで構成されている。メディカルスタッフが連携・協働することで、入院や外来通院中の患者の生活の質(QOL)の維持・向上や、それぞれの人生観を尊重した療養の実現を目指しています。