コラム/エッセイ

チームオンコロジーへの道

Essay: Road to TeamOncology

エデュケーションとイノベーションを掲げて

医師:中山貴寛

中山 貴寛 Takahiro Nakayama

医師

大阪府立成人病センター Osaka Medical Center for Cancer and Cardiovascular Diseases

最近、チーム医療という言葉がようやく浸透し始め、各地でそれを導入しようという意識が芽生えつつあるように思います。チーム医療の推進を使命とする我々チームオンコロジー.Comのスタッフにとっては、うれしいことであります。

私は、2005年のM.D.アンダーソンがんセンターでの研修後、チーム医療を広めるために様々な活動を行ってきました。しかし、日本とアメリカの医療事情の差異が大きな障壁となり、米国式チーム医療を日本の医療現場に持ち込むのは、かなり無理があると実感せざるをえませんでした。そして試行錯誤を繰り返すうちに、取り組むべきいくつかの点に気づいたのです。そして、2つのキーワード、エデュケーションとイノベーション(教育と意識改革)を掲げて活動してみようと考えたのです。

では、なぜエデュケーションかというと、知識を習得することにより、チーム医療において最も大切なコミュニケーションが円滑に行われるようになるからです。チーム医療において、対等な立場で、しかも相手の専門性を尊重しつつ、ディスカッションを行うことが非常に重要です。そのためには、ある一定レベルの専門知識が必要になります。残念ながら、我が国において、我々とともに診療に携わるスタッフの専門知識が十分とはいえません。

我々は、この点を解消すべく、院内でカンファレンス(月1回、術後症例検討)やミニレクチャー(月1~2回)、ショート・カンファレンス(毎週)を短時間で回数多く行なうようにしています。その目的のひとつは、もちろんスタッフ間の情報共有でありますが、もうひとつの大きな目的はスタッフに対する教育です。そのつど、スタッフの様々な疑問点・問題点を拾い上げて解説する。そして、少しずつ断片的な知識を蓄え、そのうちに大きなジグソーパズルが完成するかのごとく、最後には系統だった知識として身につくようになってくれることを期待しての活動であります。

次に、イノベーション(意識改革)であります。困ったことに、我々の職場にもいまだに患者の存在を無視したセクショナリズムが存在します。これもチーム医療を推進する上で、足かせとなっていることは事実です。自分の役割を自ら制限し縮小するのではなく、積極的にそれを拡大し、大切な部分は職種を越えてみんなでカバーし合うという意識。これが重要であると考えます。それには、これまでの固定観念や決め事に縛られずに、“患者様にとって何が最も大切なのか”と問いかければ、おのずから答えが得られるものと確信しています。

イノベーションに対する具体的な方策は見当たりませんが、できるだけ患者様に接する機会を設け、そこで自ら考え感じ取るということが重要なのではないでしょうか。私は、スタッフにできるだけ患者様に近い場所で一緒に考える習慣をつけてもらうよう、お願いしています。

最後に、今、我々が取り組もうとしている新たな試みについて紹介します。それは臨床試験です。私はスタッフに、機会があるごとに臨床試験の説明をして理解を深め、興味をもってもらうようにしています。次に、QOL(Quality of Life:生活の質)や副作用チェックなどの分野を任せて参加していただくのです。まだ始めたばかりですが、皆、意外に興味を持ってくれ、積極的に参加してくれています。臨床試験もまさに先ほど私が掲げたキーワード、エデュケーションとイノベーションを推進していく上で、非常に役に立っています。これからも、我が国の実情に即した形でのチーム医療の導入に向けて、少しずつ改革を進めていければと思います。

(2006年執筆)

ちょこっと写真、ちょこっとコメントMy interest at a glance:

私には、3人の男の子供がいます。しかし、忙しさにかまけて、上の2人の子供とは、あまり遊んでやることができませんでした。今は、それをとても後悔しています。それで、末の3人目の息子とは、忙しいなかでも、できるだけ時間を見つけるようにして、一緒にサッカーや野球をやって楽しんでいます。皆さんも、家族との時間を大切にしていますか。家族は一番大切なチームです。できるだけ時間を見つけて、一緒に楽しんでください。

(2007年 4月執筆)