コラム/エッセイ

医療者とのコミュニケーションの取り方
~主体的に医療を受けるために~

Communicating effectively with medical proffessionals

Vol.04

私が強く医師の免許更新制度を望むわけ(2)

vol.03より続く)結局タウンページで調べて、4軒めで、アレルギー専門の小児科医にたどり着くことができました。そして、そこで、娘が食べ物が原因のアトピー性皮膚炎であること、食事療法が必要なこと、強いステロイド剤で副作用が出ていたことを診断してもらえました。

アトピーだと言われたときは、これからのことが不安でショックでしたが、「お母さん、仕事をお持ちなら、辞めてはいけませんよ。今は保育園も対応してくれます」とおっしゃっていただいたのが、何よりの励ましになりました。もちろん仕事が続けられるかどうかを一番に心配していたわけではありません。その言葉から、「今までどおりに生活できますよ」というメッセージを受け取ったのです。

この出来事が、その後、私が医師と患者との医療情報の共有に強い関心を持つことになったきっかけでした。そして、食事療法が効果をあげ、2歳になるころには娘はほぼなんでも食べられるようになっていました。2歳の誕生日に、卵や牛乳を使ったケーキを食べられた感動は、大きな写真にして今も飾ってあります。

そして症状が落ち着いたころ、私は1通の手紙を書きました。娘を産んだ産婦人科の院長あてでした。娘に処方した薬は、赤ちゃんには使ってはいけないものだったこと、その薬を今も1ヶ月健診で湿疹のある赤ちゃんに処方しているのであれば、即刻やめてほしいことをしたためました。しかし、結局、その手紙は投函できずに終わりました。

なぜ投函できなかったのか、今もって自分でもよくわかりません。院長に手紙を書いても、読んでもらえるかすらわからないという深いあきらめの気持ちがあったようにも思います。しかし、なぜ、毎日のように赤ちゃんを取り上げている産院の院長が、用法をよく知らないで劇薬ともいえる薬を生後1ヶ月の赤ちゃんに処方したのか。それが理解できなかったのが、手紙を投函できなかった一番大きな理由だったように思います。

なぜ、産科の医師は間違えた薬を使ってしまったのか。その後、その理由のひとつと思われる出来事に出会う機会がありました。

娘がアトピーの治療を始めたころから、小児科医の励ましもあり、私は患者向けがん専門誌の編集者として働き始めました。仕事の中で、日本医師会の責任ある立場の医師に取材をする機会があり、「医師は、いったん医者になったあと、どうやって日進月歩の医療についていくのですか?」と質問をぶつける機会に恵まれました。そのとき、日本の開業医のリーダーとも言うべきその医師が言った言葉は忘れられません。

「大丈夫ですよ。必要なことは、製薬会社の営業さんが教えてくれるから。」

この言葉は、大事なことを私に気づかせてくれました。それまで私は、医師というものは、医学部で学んだ専門的な知識に、診療で得た経験を加味して、薬の処方をしているものと考えていました。しかし、当然のことですが、開業してから後の医師には、勉強する義務もなければ、チャンスも少ないのです。新薬の用法や用量についての知識は、それを売りに来た、営業マンから聞くしかないのだということです。

でも、本当にそれでいいのでしょうか。新薬の取り扱い方を説明する責任は製薬会社の営業さんにあるのかもしれません。しかし、最終的に患者さんに投薬する行為の責任は、医師の専門性にかかっているはずです。それ以来、私は、医師にも免許更新制度を設けて、せめて10年に一度ぐらい、知識の更新をしてもらう必要があると考えるようになりました。みなさんは、どう思いますか?

(2007年4月執筆)

難波 美帆
難波 美帆
1971年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科 准教授。 サイエンスライター。患者向けがん雑誌の編集に携わるなかで、チーム医療の理念に共感する。アドボカシーを担うNPOや出版活動に関心がある。