コラム/エッセイ

医療者とのコミュニケーションの取り方
~主体的に医療を受けるために~

Communicating effectively with medical proffessionals

Vol.05

医療コミュニケーションと科学技術コミュニケーション

「科学技術コミュニケーション」という分野は、平成16年版の科学技術白書にその必要性が述べられ、2005年(平成17年)の科学技術振興調整費という予算で全国3つの大学に「コミュニケーター」を育成する機関が設置されました。その一つ、北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニットで、私は教員を務めています。

ここでの教育カリキュラムをつくるにあたり、私は、医療における専門家(医療従事者)と一般市民(患者)のコミュニケーション活発化の取り組みを参考にしようと調査を始めました。医療の世界では、科学技術コミュニケーションの重要性が認識されるずっと前から、専門家(医療従事者)と一般市民(患者)のコミュニケーション(医療コミュニケーション)の重要性が認識されていたからです。

ところが、科学技術コミュニケーター養成教育が始まって1年、調査のために、ある「患者参加型の医療を考える」シンポジウムに参加して、より早くにスタートしたはずの医療コミュニケーションが、必ずしも先進性があるとは思えなくなりました。

そのシンポジウムでは、前に座って発表やディスカッションするのは医師ばかり。参加者の多くを占める看護師は、質疑の時間に、おずおずとお伺いを立てるような形で、自分の経験や意見を発表していました。「参加型」を話し合うシンポジウム自体が、まったく本来の参加型ではなく、医師が頂点に立つピラミッド形式の一方通行のやり方で行われていたのです。

発表を聞いていると、医師の側は、きちんとしたデータもない事例を、定量化できないようなものさしで、縦軸・横軸を設けてグラフ化し一般化するというような、信頼性に乏しい論の展開をしていました。その一方で、看護師からは、重要な事例が、具体的な自分の経験として、看護・コミュニケーションの視点で分析を加えて、報告されていました。コミュニケーションに関心を持ち、研鑽を積んでいる聴衆の看護師たちの報告の方が、私にとってはより重要に思えました。

一方、科学技術コミュニケーションの分野では、これまで、科学者やメディアから一方的に発信されていた情報の流れを双方向化するために、「科学技術コミュニケーター」を育成しており、双方向性を確保するための様々な場作りが研究されています。

ここ2年ほど、日本でも急速に広がりつつある、「サイエンス・カフェ」というコミュニケーションの場もその一つです。これは、専門家である科学者を、街中のカフェや書店など、ふらりと立ち寄れる場所に引っ張り出し、そこで、リラックスした雰囲気で一般の人と会話をしてもらおうというイベントです。こうした経験が蓄積するにつれ、通常の学会でも、一般参加の場を設けたり、学会の中で双方向性のコミュニケーションを工夫した学びの場を設けたりという取り組みが広がってきています。

「参加型」というキーワードは、いまや、医療も含めた科学技術の分野に限らず、多くの分野で「大切だ」とされています。様々な分野で、それぞれ「参加型」の工夫が蓄積されてきているのです。「参加型」を考えるときには、それらの蓄積を活かさない手はありません。医療コミュニケーションを推進するみなさんも、ぜひ、それらの参加型のコミュニケーションを取り入れてみてはいかがでしょうか。遅れて始まった科学技術コミュニケーションの分野と情報交換してみませんか。

※参考Webサイト:
​​​​​​​北海道大学高等教育推進機構科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)

サイエンスカフェ・ポータル
http://cafesci-portal.seesaa.net/

(2007年5月執筆)

難波 美帆
難波 美帆
1971年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科 准教授。 サイエンスライター。患者向けがん雑誌の編集に携わるなかで、チーム医療の理念に共感する。アドボカシーを担うNPOや出版活動に関心がある。