コラム/エッセイ

納得して抗がん剤治療を受けていただくために
~薬学専門家からの提案~

Understanding your therapy for good treatmen.

Vol.23

がん薬物療法の副作用対策には、患者さんを含めたチームアプローチが必須!

最近、化学療法を含めたがん薬物療法の副作用対策には、患者さんを含めたチームアプローチが必要であることを示唆する研究論文がいくつか報告されています。今回は、それらの中から興味深い研究論文を紹介してみたいと思います。

1.チームで合意した副作用対策で、患者さんが苦しむ副作用を軽減する

文献上からベストエビデンスと思われる副作用対策をまとめて、チームで合意された在宅ケアナーシングプログラムを用いて、カペシタビンを含む化学療法の有害反応対策を行う群と従来の標準的ケアを行う群で、有害反応の変化を調べたランダム化比較試験があります(Molassiotis A et al. J Clin Oncol 2009 in press)。

それによると、計画化された在宅ケアナーシングプログラムを行った群は、手足症候群や嘔吐を除いては、標準的ケアを行った群より有意に副作用が少ないことが示されました。

このことは、外来化学療法でも、看護師が中心になって有害反応のアセスメントを行い、重篤な場合には、自宅を訪問して対処することや専門施設へ紹介するなどの対応で、副作用で苦悩する患者さんが少なくなることを意味していると思います。

しかし、カペシタビンに特徴的な手足症候群は、このプログラムを行っても有意な改善は認められていません。すなわち、薬剤に特徴的な副作用対策を加味する必要があると思われますが、エビデンスや作用機序などの薬理作用を考慮して、チームで合意した副作用対策を行うことによって、患者さんが苦悩する副作用は軽減すると思われます。

2.副作用のモニターには、患者さんとコミュニケーションの多い看護師が良い

また、副作用のモニターに関しても興味ある研究があります。それは、外来がん薬物療法の副作用の強さと頻度に関して、患者さんが評価した結果と、医師の評価結果および看護師の評価結果を比較した研究結果です(Cirillo M et al. Ann Oncol 2009 in press)。

その結果によると、倦怠感、口内炎などの粘膜炎、末梢神経障害や便秘に関しては、患者さんと医師評価との一致率は32%~42%と低く、患者さんと看護師の評価の一致率は55%~78%となりました。このことは、患者さんが苦しむ副作用は、患者さんとのコミュニケーションが多い看護師の方々がモニターすることが重要であることを示しています。

しかし、看護師の評価と患者さんの評価の一致率は、全体で55%~86%ですので、必ずしも十分であるとは言えません。患者さんとのコミュニケーションの機会が多い看護師でも、外来化学療法では、入院治療を受けている場合と違って、コミュニケーションが十分に行えず、患者さんの副作用を評価できない例があることになりますので、電話やオンラインを利用してモニターしたり、症状の問診票を使って患者の有害事象を評価したりすることが必要となると思われます。

看護師の方々は、患者さんの状態や症状のアセスメント能力が、他の専門職より優れていると思われます。また、医師の診断や病状把握、薬剤師の薬物療法や薬物相互作用による有害事象の可能性の評価など、医療チームで患者が苦悩する有害事象を総合的に判断することも必要と思います。

3.患者さんや医師などの副作用評価によって異なる、その後の臨床経過

また、もうひとつ、患者さんと医師または看護師の副作用評価の違いとその後の臨床経過(死亡や救急部門への受診)などとの関連性を調べた研究結果があります(Basch E et al. J Natl Cancer Inst 2009;101:1624-1632)。

この試験では、医師(47%)、看護師(53%)が副作用を評価しています。前述した試験と同様に、中程度(グレード2)以上の副作用の頻度は、患者さんが評価する方が、医師または看護師が評価するものより高いことが認められています。その違いは、その後の治療経過にどのように影響するのか興味があるところです。

この研究では、死亡リスクや救急部門への入院のリスクと患者さんが評価した副作用や医師または看護師が評価した副作用との関連性を調べています。死亡リスクに関連するのは、医師または看護師が評価した倦怠感、悪心、便秘、全身状態(KPS)の低下や疼痛であることが認められ、救急部門への入院のリスクは、医師が評価した倦怠感、全身状態(KPS)の低下や疼痛に関連することが認められています。このことは、救急部門への入院や死亡に関わる有害事象は、医師や看護師の評価が患者さんの評価より適切である可能性を示しています。

しかし、健康関連QOLに関しては、患者さんの評価がより関連することが認められています。すなわち、重篤な臨床的事象を予測するためには、医師や看護師が評価することが重要であり、患者QOLを維持・向上させるためには、患者評価が重要となることを示唆しているものと思われます。

4.がん薬物療法の副作用に苦しむ患者さんを少なくするために

がん薬物療法の効果的な副作用対策は、がん薬物療法の作用機序を理解しておくことが必要になると思いますので、それらの知識がある医師や薬剤師で協力して、一般的な有害反応対策プログラムと薬剤別の対策プログラムを作成し、それらに基づいて、患者さんとともに有害反応対策を行うことが必要であると思われます。そして、また同時に、副作用の程度を患者さん、医師、看護師、薬剤師の方々がそれぞれ評価しながら、医療チームで副作用を総合評価の上、より適切な対応をすることで、がん薬物療法の副作用に苦しむ患者さんを少なくすることができるのではないでしょうか。

このように、がん薬物療法の副作用対策には、患者さんを含めたチームアプローチが必須であると考えます。

※執筆者の瀬戸山氏が運営する爽秋会クリニカルサイエンス研究所では、一般向けと医療関係者向けに、がん医療に関する情報を提供しています。こちらのサイトもご利用下さい。

(2009年12月執筆)

瀬戸山 修
瀬戸山 修
1949年生まれ、爽秋会クリニカルサイエンス研究所代表。がんの初期から終末期までの一貫したがん医療の質の向上を願い、薬学、特にがん薬物療法に関する臨床薬理学、臨床疫学(EBM)の立場から、最新のがん医療情報の発信、薬剤師や看護師の教育研修を行っている。