コラム/エッセイ

納得して抗がん剤治療を受けていただくために
~薬学専門家からの提案~

Understanding your therapy for good treatmen.

Vol.24

代替医療に思う

最近、がん専門誌でも、食事や運動、漢方や鍼治療などの中国医学の有効性が報告されるようになってきています。がん患者の方々の中には、藁にもすがる気持ちで、「がんが治る」という過剰広告や噂を信じて、サプリメントなどを服用する方も多いと思われます。今回は、代替医療について、私見を述べてみたいと思います。

1.代替医療とは

日本補完代替医療学会では、代替医療を「現代西洋医学領域において、科学的未検証および臨床未応用の医学・医療体系の総称」と定義し、中国医学(中薬療法、鍼灸、指圧、気功)、インド医学、免疫療法(リンパ球療法など)、薬効食品・健康食品(抗酸化食品群、免疫賦活食品、各種予防・補助食品など)、ハーブ療法、アロマセラピー、ビタミン療法、食事療法、精神・心理療法、温泉療法、酸素療法などを含めています。

これらの中には、有効性が評価されたものもあり、玉石混淆という状況かもしれません。日本補完代替医療学会では、「がんの補完代替医療ガイドブック」をまとめ、現在まで評価されている代替医療を紹介しています。

■参考文献およびWebサイト

「がんの補完代替医療ガイドブック」(監修:日本補完代替医療学会)
http://www.jcam-net.jp/topics/guidebook.html
米国国立補完代替医療センター:National Center for Complementary and Alternative Medicine (NCCAM)
http://nccam.nih.gov/

2.栄養の重要性

昨年2009年の米国医学会誌(JAMA)に、乳がん患者を対象として大豆食品の摂取量と乳がん患者の生存期間との関連性を検討した中国のコホート試験結果が掲載されました。その結果をみますと、大豆食品の摂取量が多い患者さんで乳がん再発や死亡のリスクが低下しており、特に、エストロゲン受容体陰性の患者さんやタモキシフェンを使用した患者さんでその効果が顕著であることが示されています (Shu XO et al. JAMA. 2009; 302: 2437-2443)。

ランダム化比較試験ではありませんので、大豆食品が乳がんの再発を予防すると結論することはできませんが、大豆食品を摂ることで再発を予防する可能性があると考えることはできると思います。しかし、この結果は、大豆蛋白やイソフラボンを抽出したものを摂取しているのではなく、あくまでも大豆食品を摂取した時の効果と考えることが必要と思われます。

最近、葉酸やビタミンB12のサプリメントは、がんのリスクを低下しないことが報告されていますが、この結果から、ブロッコリーなどの緑黄色野菜には良い作用はないと解釈することは正しくないかもしれません。ブロッコリーを摂取した場合には、葉酸とブロッコリーの他の成分が相乗効果を発揮する可能性があります。すなわち、単離した葉酸のサプリメントを摂取した場合とブロッコリーを摂取した場合とでは、異なる作用があると考える方が良いのかもしれません。

食べることができるのならば、食物から必要な栄養素を摂取することを考えた方が賢明で、サプリメントはあくまでも、食事(食物摂取)の補完であり、不足する場合には、食事と一緒に摂取することが望ましいと考えています。

日本では、サプリメントに関して、医師の方々と患者さんが話し合うことは少ないと思いますが、患者さんと医療専門職とで、サプリメントが治療に悪影響するのか、または良い影響があるのかを、オープンに話し合うことが望ましいと思います。また、その場合、サプリメントが、薬物相互作用があり、がん治療の効果を減弱するのか、または、治療の副作用が増えるのかなどを慎重に考える必要があると思います。

3.漢方医薬について

がん医療の場で使用される、オキサリプラチンをはじめとするプラチナ製剤、パクリタキセルなどのタキサン製剤、ビンカアルカロイド、サリドマイドなどの薬剤は、しびれなどの末梢神経障害の有害反応があります。しかし、これらの末梢神経障害に関して、種々検討が行われていますが、未だその対策は確立していない状況です。

オキサリプラチンなどの投与による末梢神経障害に対する牛車腎気丸の予防効果を評価する第II相試験結果では、牛車腎気丸は、オキサリプラチン投与による奏効性を損ねることなしに末梢神経障害を予防する可能性が示されています(Kono T. 2009 Gastrointestinal Cancers Symposium #326, Morimoto S. et al. 2010 Gastrointestinal Cancers Symposium #474)。

牛車腎気丸がオキサリプラチンの末梢神経障害対策として可能性の高い薬剤であると思いますが、適切に評価するためには、無増悪生存期間や全生存期間に対する効果も減弱しないこと、5-FUや他の製剤との薬物相互作用のリスクがないことを証明することが必要と思われます。

漢方医薬は、がん医療の場でも可能性が高いと思いますが、いわゆる西洋医薬との併用効果に関して体系的に評価されていないものが多く、西洋医薬との薬物相互作用が明らかにされていないことが大きな問題と思います。西洋医薬との併用を行う場合は、漢方医薬でも、西洋医薬のような評価や薬物相互作用の評価が必要と思います。

4.鍼治療について

タモキシフェンなどのホルモン療法の有害反応である“ほてり(潮紅)”などに対して、選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ剤や抗けいれん剤であるガバペンチン(商品名ガバペン)の薬物療法や鍼治療が有効であるとの報告があります。

最近、ホルモン療法による”ほてり”に対する、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)ベンラファキシン投与群と鍼治療群の改善効果を比較するランダム化比較試験結果が報告されました(Walker EM et al. J Clin Oncol 2010; 28: 634-640)。非常に症例数が少ないランダム化比較試験ですが、ベンラファキシン投与群、鍼治療群とも、治療中は “ほてり”に対する有意な改善効果が認められ、ベンラファキシン群では治療終了後に“ほてり”が再増悪するのに対して、鍼治療群ではその改善効果は治療終了4週後も持続することが認められています。

また、鍼治療群には1例も有害事象が認められていませんが、ベンラファキシン群では悪心/めまい、口渇、頭痛、睡眠異常/倦怠感、複視、血圧上昇、便秘、不安、ボーッとする/頭がクラクラする、けいれん/神経過敏などの有害事象が認められています。

ベンラファキシンのみならず、種々のSSRIやガバペンチンなどの抗けいれん剤が有効と報告されています。しかし、これらの薬剤との併用は、薬物相互作用を考慮しなければならず、有害反応を留意する必要があります。

患者さんに安全で安心して治療を受けていただくためには、がん治療の効果を損ねることなく、さらに有害反応のリスクが少ない有害反応対策が必要ですが、その点では、鍼治療は、ほてりの有害反応対策として、最適である可能性が示唆されたと言えると思います。また、鍼治療に関しては、痛みや化学療法による悪心・嘔吐にも効果的であるという報告もありますが、血小板減少や抗凝固療法中の施術は慎重に行うべきと思います。

代替医療の中には、可能性の高いものも多いと思います。漢方や鍼灸治療に関しても、副作用対策や症状緩和に対する効果が適切に評価されることを期待しています。

※執筆者の瀬戸山氏が運営する爽秋会クリニカルサイエンス研究所では、一般向けと医療関係者向けに、がん医療に関する情報を提供しています。こちらのサイトもご利用下さい。

(2010年2月執筆)

瀬戸山 修
瀬戸山 修
1949年生まれ、爽秋会クリニカルサイエンス研究所代表。がんの初期から終末期までの一貫したがん医療の質の向上を願い、薬学、特にがん薬物療法に関する臨床薬理学、臨床疫学(EBM)の立場から、最新のがん医療情報の発信、薬剤師や看護師の教育研修を行っている。