コラム/エッセイ

納得して抗がん剤治療を受けていただくために
~薬学専門家からの提案~

Understanding your therapy for good treatmen.

Vol.31

再度、代替医療を考える

最近の厚生労働省研究班の調査では、がん医療を受けている患者さんの44.6%が何らかの代替医療を受けていると報道されています。また、代替医療の一つ(?)と考えられているホメオパシーを利用した方が、病気が悪化して死亡する例が問題となり、日本学術会議では、その効果を否定する会長談話を2010年8月24日に発表しています(参考資料:ホメオパシーに関する会長談話は日本学術会議サイトの会長談話ページに掲載されています)。

以前、この連載コラム(vol.24)でも取り上げたことがありますが、いま一度、代替医療と称されるものについて考えてみたいと思います。かなり個人的な意見が入っていますので、問題が多いかもしれません。ご批判、ご意見をお願いします。

1.医療と呼ぶには有効性の証明が必要

日本補完代替医療学会では、代替医療を「現代西洋医学領域において、科学的未検証および臨床未応用の医学・医療体系の総称」と定義し、中国医学(漢方薬、鍼灸など)をはじめ数多くのものを含めています。西洋医学と言っても100%の患者さんに効果があるものはほとんどありませんので、西洋医学の限界や欠点を補う、補完・代替医療があっても不思議ではありません。

医療は、医学・科学的に立証された治療や医術を用いて、病気で悩む患者さんがその人らしい生活が送られるように支援すること、すなわち患者さんのQOL(生活の質)を最大にするものと考えられます。患者さんのQOLをあげるものには医療以外にも、音楽鑑賞、友人との食事、自然にふれあうこと、ペットを飼うことなど、いろいろあると思います。

医療の中にも、西洋医学の臨床試験のように、仮説を立て、それを立証することで有効性を証明したものもありますし、中国医療のように、数千年にわたる伝統医学を体系的にまとめた経験的事実からその効果を裏付けている医学もあります。

すなわち、医療と言うためには、実際に患者さんでその有効性が確認されているものを患者さんに提供することが求められると考えられます。その観点からすると、有効性が証明されていないものは、どんなものでも、「医療」と呼ぶのは適切ではないと考えていますし、「代替医療」と呼ぶことで誤解されてしまうものもあるかもしれません。

2.医療というには適切ではないもの

前述したホメオパシーは、2005年にLancet誌に種々の臨床試験結果のメタ分析結果が報告されていますが、その報告では、多くの臨床試験の質も良くなく、ホメオパシーはプラセボ以上の効果は認められないと結論しています(Shang A et al. Lancet 2005; 366: 726-732) 。適切な臨床デザインで評価すれば「効果があるのか効果がないのか」明確に結論されると思いますが、現状では効果が期待できないと考えるのが妥当と思います。

また、大腸がんの術後化学療法を行った患者さんでサプリメントとしてのマルチビタミンの効果を評価した試験結果が最近報告されましたが、マルチビタミンは、有効性や副作用軽減に対する効果がないと結論されました。この結果は、あくまでもサプリメントとしてのマルチビタミンの服用は効果がないと考えるべきで、食事で得られるビタミンの効果を否定したものではありません。また、ビタミンが不足している患者さんにどのような効果があるのか、明らかにする必要はあると思います。

また、鮫軟骨も効果があるサプリメントと言われた時期もありますが、非小細胞肺がん患者などを対象とした試験で効果はないことが確かめられています。

したがって、これらは、効果がないことが明らかになりましたので、「代替医療」と言う名前でも、「医療」と呼ぶことは適切ではないと考えます。

3.中国伝統医療の可能性

一方、中国の伝統医療である鍼灸や漢方薬は、基本的には、体系的経験によってまとめられた経験医学に立脚する医療で、診断方法などが西洋医学とは異なります(中国医学では証をとると言います)。そのために、エビデンスの体系化の方法は、西洋医学と同じ概念で評価するのは必ずしも正しいとは思えませんが、西洋医学の臨床試験でも有効性が明らかに証明されつつあります。特に鍼灸は、悪心・嘔吐などに効果的であることはWHOなどでも認められていますし、中国医学の国際基準を定めようという動きもあります。

筆者も、鍼灸師と懇意にしており、定期的に鍼灸治療を受けていますが、非常に快適で施術後の気分は爽快であると感じています。しかし、一方で、「鍼灸や漢方でどんな病気でも治る」と言われる方もおられます。そんなことをやっていては、「ホメオパシーが効果的」、「○○でがんが治る」という、いかがわしい誇大広告と同じことと思います。

個人的な経験からすると、鍼灸は、患者さんのQOLの改善効果がある可能性があると考えていますので、患者の証(中国医学の診断)別に、鍼灸が患者QOLにどのように影響するのかを明らかにすることが出来ればよいのではと、僕の治療を担当している鍼灸師の方と話しています。

4.医療と生活の楽しみは混同してはならない

前述しましたようにQOLをあげるものには数々のものがあります。旬のものや美味しいものを食べること、好きな音楽を聴くこと(上野直人先生は人気アイドルユニットPerfumeがお好きな様ですが…)、散歩や森林浴など自然に親しむこと、温泉などは、私たちの生活を楽しくさせることが出来ますし、生活するためには必要なことと思いますが、生活の楽しみの有効性を特に証明する必要はないと考えています。

しかし、これらを医療に応用して、音楽療法、食事療法、運動療法が行われていますが、医療に応用する「療法」という場合には、その効果を明らかにする必要があると思います。実際、生活習慣病などに対する食事療法や運動療法の効果が示されてきています。

すなわち、生活を楽しむものであれば、患者さんのご意向通りに取り入れられれば良いと思います。しかし、それらの中には、治療の効果や副作用に影響するものがありますので、その場合には、医師や薬剤師に相談することをお勧めします。

まとめますと、代替医療と呼ばれているものには、生活を楽しむために患者さんが取り入れるものと医療として患者さんに応用するものがあります。生活を楽しむものであれば、有効性の証明は必要ありません。しかし、代替医療は、あくまでも患者さんに提供して、なんらかの効果があることを期待するものと思いますので、医療として応用する場合には、有効性が証明されていなければなりません。前述したホメオパシー、マルチビタミン、鮫の軟骨などは、現在効果が証明されていませんので、代替「医療」と呼ぶことは適切ではないと思います。

現在の代替医療の定義には、数多くのものが含まれていますが、これらを一括りにして語ることは誤解を生じることになりますので、好ましくないと考えています。よりよいものにするためには、医療に応用して、その有効性が証明されたもの、または有効性を評価しつつあるものに限定する必要があると思います。そして、将来的には、「代替」という言葉がはずれて、医療の一つとして評価される時代が来ることを期待しています。

米国がん研究所のPDQに代替医療に関する情報が記載されています(参考資料:PDQ癌情報要約:治療(部位別:補完代替医療)

※執筆者の瀬戸山氏が運営する爽秋会クリニカルサイエンス研究所では、一般向けと医療関係者向けに、がん医療に関する情報を提供しています。こちらのサイトもご利用下さい。

(2010年10月執筆)

瀬戸山 修
瀬戸山 修
1949年生まれ、爽秋会クリニカルサイエンス研究所代表。がんの初期から終末期までの一貫したがん医療の質の向上を願い、薬学、特にがん薬物療法に関する臨床薬理学、臨床疫学(EBM)の立場から、最新のがん医療情報の発信、薬剤師や看護師の教育研修を行っている。