コラム/エッセイ
チームオンコロジーへの道
Essay: Road to TeamOncology
私が臨床にうつったわけ
三輪 教子 Noriko Miwa
医師
西脇市立西脇病院 Nishiwaki Municipal Hospital
1. ジャパン チームオンコロジー プログラム(J-TOP)との出会い
私が、Japanese Medical Exchange Program (JME)で、MD Anderson Cancer Center (以下M DA) の留学生として研修をうけたのは、2009年4月から5月にかけてでした。当時、兵庫県内の公立病院で内科医として勤務していました。その頃、がん性疼痛のコントロールがむつかしい、胸膜悪性中皮腫の患者さんを担当、悪戦苦闘していました。同僚の内科医師のみでなく、放射線科の医師、薬剤師、看護師、リハビリ科のスタッフ、はては県内のがんセンターのペインコントロールの専門家にも助言を仰ぎました。
その患者さんがなんとかご自宅に退院されたころに、J-TOPのことを知りました。そして参加した第2回チームオンコロジー・ワークショップの2泊3日は、自分の感覚が研ぎ澄まされるような、それでいて暖かいものを感じることのできた、貴重な体験となりました。
2. 基礎医学から臨床へ
それまで基礎医学(生化学)の教官であった私が臨床に移ったのは、乳がんに罹患したからでした。自分が患者になってみると、医療の現場で患者は弱者なのだ、ということを否応もなく思い知らされました。医者でもある私でさえそうなのだから、一般の患者さんの不安は察するにあまりある、と思いました。
医者兼患者の立場を生かして、患者さんと医療者との橋渡し役になりたい。また、分子標的薬のパイオニアが乳がん治療薬であることを知り、基礎医学者としてのバックグラウンドを生かして、基礎医学と臨床研究の橋渡し役ができたら、と思いました。
3. 私のVisionとMission
MDAでの研修を通じて固めた私のVisionとMissionは、再発乳がんの治療に関するものです。原発性乳がんの治療については標準治療が“秒進分歩”ですが、再発乳がんについては、それまでの病歴・治療歴が様々なので、真の意味でのテーラーメード治療になるでしょう。患者さんの心のケアを中心に据えた、全人的な治療を目指したい。そのために、患者さんの病状に合わせた最善の薬物療法を提案し、ご本人、ご家族と一緒に話し合って決める。
4. 治療遂行に不可欠なもの
その治療を遂行するにあたって、不可欠なものが3つあると思います。Passion、Communication、そして謙虚さ。私は、大学院生として、その後スタッフとして、20年以上研究に携わってきた計算になりますが、その間ずっと思っていたことは、自然はなんと精妙にできていて、美しいのだろう、人間はその前では取るに足りぬものである、ということでした。真理はつくるものではなく、発見するものです。対象を自分の思いどおりに動かすことはできません。注意深い観察と、異なる価値観を受け入れる素地が大切だといつも自戒しています。
5. 今後の課題
医療は、ひとりではできません。たくさんのスタッフの相互理解と協力が必要です。異なる職種が自分の専門の垣根を越えて、同じ患者さんに有機的に関わることで、はかり知れない相乗効果が生じ、豊かな医療が実現できるのだと信じます。
その時に、患者さんが、治療の輪の真ん中に座っているだけではなく、立ち上がって輪との間でキャッチボールができるようになったら素晴らしいと思っています。それをどうやって実現していくのか、それが私の大きな課題のひとつです。自分の患者としての体験から、患者は治療についての見通しを常に欲していることを実感しています。患者さんに検査結果等をbad newsも含めてはっきりと伝え、見通しを常に明確に示していきたい。そうすることで、患者さんに信頼され、よりよい生を生きるための、そして、死の受容のためのサポートができると思います。
患者であること、研究者であることが、私の医療者としての原点です。
2011年3月17日、東北地方太平洋沖地震の余震の最中に記す。被災者の方々の平安を心からお祈りします。頑張れ東北!!頑張れニッポン!!
(2011年 3月執筆)
最近のマイブームは、年金生活の予行演習、つまり節約生活です。ジムをやめて朝のラジオ体操とウォーキング。食事はほぼ自炊。できるだけものを捨てない・買わない、古本屋で本を買う等々。
結構楽しく、新たな発見もあります。自分が意外と料理が好きであること(写真は手作りのおせち料理)。鶏がらで出汁を取りながらの読書は最高! 近所を歩くと、沈丁花が咲いた、朝歩いている人が結構いるな、等々面白いです。ついでに、やせました、ちょこっと。
(2011年 3月執筆)