コラム/エッセイ

チームオンコロジーへの道

Essay: Road to TeamOncology

「患者中心」の医療を追究しています

看護師:野木雅代

野木 雅代 Masayo Nogi

看護師

元東京医科大学病院 Former Tokyo Medical University Hospital

もう10年以上も前に看護学生だった頃、「医療の中心は患者である」と習い、“何を当たり前のことを言っているのだろう?”と考えていました。臨床現場に出た私は、時間に追われ、忙しい日々の中で、いつしか自分の都合や病棟の都合で業務を進め、時には患者様に待っていただいたり、我慢していただいたこともありました。このままでは、私は誰のために何のために働いているのか、分からなくなってしまう、そんな焦る気持ちはありました。しかし、そんな疑問は時間とともに考えることもなくなってしまいました。

1. やっぱり、患者様が「中心」

私は、2009年Japanese Medical Exchange Program(JME)でMD Anderson Cancer Center(以下MDA)へ留学させていただきました。そこでは、「患者中心の医療」を目指し、多くの職種の人達が一つの目的に向かって、力を合わせて真剣に働いていました。当初は、大きな組織は、システムがしっかりしているからできる、そう感じていました。

しかし、MDAは従業員が18,000人以上もいる大病院、全員が「患者中心の医療」という同じ目的に向かって進むためには、とても強い信念とエネルギーが必要です。私が出会った職員の方は、皆さん一人一人、目的意識が高く、とにかく、とても楽しそうに働く姿が印象的でした。ワクワク仕事をしているスタッフがいる、そこに笑顔のある患者様がいる。ここで働ける人は幸せだろうな、と思いました。やはり、医療は「患者中心」でなくてはならないのだと再確認した研修となりました。

2. 看護という仕事

私たち看護師は、患者様に寄り添って、24時間の生活を整える仕事です。患者様が持てる力を最大限に引き出せるよう、生活を整えます。医療者の中では一番、患者様に近い私達が、「患者中心」の医療を行っていくためには、どんなことが大切だろうか?どんな意識のあり方が、ワクワク仕事をすることに繋がるのだろうか?と考え続けています。そして、一人でも多くの看護師に、患者様へのケアを通して、看護という仕事を選んで良かったと思ってもらいたいと考えています。

3. 「患者中心」のために、とても大切な「チーム医療」

知識も技術も最高のスペシャリストが、それぞれ患者様のところへ出向いて医療を提供したとします。専門家からのベクトルは患者に向かっており、一見「患者中心」に見えます。しかしこれでは、患者様が輪の「中心」にはなっていません。専門家同士の、それぞれのベクトルは患者に向かっていますが、お互いには繋がっておらず、連携されなければ、患者様は医療の「中心」に位置することができないのです。

4. 「患者中心」の輪を作るには、より多くの職種が必要

以前から、医師、薬剤師、看護師におけるチーム医療には意識がありましたが、その他の職種へ意識が向くことは、とても少なかったように反省しています。栄養士、理学療法士、検査技師と次々と他職種と関わることで「患者中心」の輪は大きくなっていきます。病院経営に大きな影響を与える事務職の方々、食事を運んで下さる栄養課の方、シーツを交換して下さる業者の方、隅々までピカピカにして下さる清掃業者の方々。上げたら切りがありません。

私が患者様の目の前で、24時間の生活を整えて働いているその瞬間には、直接的ではありませんが、間接的に「患者中心の医療」に大きく影響を与えている人達がたくさんいることに気がつきました。意識が変わると、よく観察するようになり、挨拶し、話をするようになりました。そして、気がついたら輪がどんどん広がって、患者様の満足も得られ、私達もワクワクして働けるのではないかと考えています。

5. 今後の課題

現在、働きながら大学院へ通っています。「看護」という仕事の意味や位置づけ、ものすごいスピードで変化し続ける世の中の動きに応えられる看護師の育成や教育に携わっていきたいと考えています。そして、一人でも多くの人達が「患者中心の医療」の輪作りに参加していただけるよう、ワクワクして自分の仕事が楽しいと思っていただけるよう働きかけていきたいと考えています。

(2011年 3月執筆)

ちょこっと写真、ちょこっとコメントMy interest at a glance:

お寺を巡り、仏像を眺めることが大好きです。始まりは、あるお寺で写経をやったことがきっかけです。あの静けさと、“無”になれる仏教の世界は、本当にすごいと感じました。

また、仏像に興味を持って以来、いろいろなお寺で、うっとりする仏像に出会いましたが、一番驚いたのは札幌にある45メートルの涅槃大仏様(右の写真)です。いつまで見ていても飽きませんでした、むしろ、心が穏やかになりました。

(2011年 3月執筆)

#