コラム/エッセイ

チームオンコロジーへの道

Essay: Road to TeamOncology

マイナー路線とわたし

医師:三浦裕司

三浦 裕司 Yuji Miura

医師

虎の門病院 Toranomon Hospital

マイナー遍歴

最近になって気付いたことがある。子供の頃から遡って考えてみても、どうやら私は、マイナー路線を好む傾向があるということだ。確かに子供の頃から私の好きなお菓子はよく生産中止になった(たとえば、ハイチュウ梅味)。最近でも、私がはまったジュース類は、よく院内の自動販売機から姿を消す運命にある。そんな私の傾向は、仕事面にも現れているように思われる。

腫瘍内科

私は腫瘍内科医である。腫瘍内科医は、今でこそ、その存在を知られるようになったが、10年程前までは、世の中にほとんど知られていなかった。そういう私も、15年程前にはその存在をまるで知らなかった。大学4年の時、私はマイアミ大学医学部で1年間臨床実習を行う機会を得たが、その際に、血液内科の実習をしている私が、なぜ肉腫の患者さんを担当しているのか不思議に思ったものであった。

それもそのはず、私が実習をしていたのは血液内科ではなく、Department of Hematology/Oncologyであったのだ。その時に、medical oncology(腫瘍内科)の存在にこそ初めて気付いたが、「アメリカでは血液内科医が固形腫瘍の抗がん剤治療もするのね」くらいの意識しかなく、本当の存在意義には全く気付いていなかった。

私が腫瘍内科医への道を歩みだした6~7年前は、腫瘍内科という言葉が普及しだした頃ではあるが、まだまだそれを目指す医師は少なく、その頃の腫瘍内科医志望というのは、マイナー路線であったと思う。

Genitourinary Medical Oncologist

腫瘍内科医はその中で自分の得意とする分野を持つことが多いが、私が最も得意とする癌腫は腎がんであり、genitourinaryという分野を専門としている。海外では、このgenitourinaryの分野は、腫瘍内科の中でも花形の一つであり、世界で最も大きい学会のひとつであるASCO (米国臨床腫瘍学会)でもgenitourinaryのセッションは2番目くらいに大きな会場で行われ、そこが満員になる程だ。

やっとここで、メジャー路線に足を踏み入れたか!と思うと、実はそうでもない。このgenitourinaryという言葉は、「生殖器・尿路系」という意味であるが、しっくりした日本語訳すら存在しない。最も近いのは泌尿器ということになるが、これにはUrologyという英訳が存在する。私の知る限りでは、genitourinaryを専門とする腫瘍内科医は日本に数人しかいないというマイナーっぷりだ。

マイナー路線の行く末

そんなマイナー路線をひた走る私であるが、世の中にはマイナー路線を走りながら、後に偉業を成し遂げた多くの人々がおり、励まされることがある。

皆さんは荒木飛呂彦という漫画家をご存じだろうか。『ジョジョ』の作者と言った方がピンとくるかもしれない。彼は、ここ数年、フランスのルーブル美術館で作品が公開されたり、国内の個展が大絶賛されたり、イタリアの有名ファッションブランド・グッチ(GUCCI)とコラボしたり、国内だけでなく世界中で最も評価されている漫画家の一人である。

しかし、彼が連載デビューした1983年当時、世の少年達は『キン肉マン』や『北斗の拳』に夢中であり、彼の初期の作品である『魔少年ビーティー』、『バオー来訪者』などは、マイナー中のマイナーだった。もちろん私は大いにはまっていたが…。

そして、現在の彼の代表作『ジョジョの奇妙な冒険』ですら、連載当初は「週刊少年ジャンプ」の後ろから2番目くらいのところに細々と掲載されており、すぐに打ち切りになるんじゃあないかと、ヒヤヒヤしながら毎週読んでいたものだ。しかし、その後、皆さんご存じのように『ジョジョ』と荒木飛呂彦は破竹の快進撃を遂げることになり、今もそれは続いている。

マイナー、メジャーは関係なく、自分の持ち分であるかどうかが大切!

荒木飛呂彦は、インタビューの中で次のように語っている。

「モチはモチ屋じゃないですけど、荒木飛呂彦はずっと『ジョジョ』でいいんですよ。
もう『ジョジョ』しか描かないし、『ジョジョ』しか描けない」

(SPURムック 『JOJOmenon(ジョジョメノン)』2012年刊、集英社より)

これをやっている時は、時間を忘れて、何度でも、いつまででもやり続けていられるというくらい愛せる対象であるかどうか、そしてそれをやり続けて大丈夫という自分の信念と自信があるかどうかが重要だと思う。マイナーやメジャーというのは、実は自分の内でなく、外にある価値観であり、これは自分の信念や自信とは全く関係がない。

自分の選んだGenitourinary Medical Oncologistという道が、「三浦裕司はこれでいいんです!」とはっきり言うことのできる、そういう対象であることが最も大事なことだと思う。

(2013年 2月執筆)

ちょこっと写真、ちょこっとコメントMy interest at a glance:

仕事場には遊び心が必要である。
最近Facebookでおなじみの上野先生のライトセイバーがこれにあたる。

ちなみに写真は私の遊び心。
来客者に持たせ、ポーズを決めさせて、遊べないところが玉に瑕である。

*写真は、テレビアニメ『マクロスF(フロンティア)』に登場する架空の可変戦闘機VF-25Sのフィギア。

(2013年 2月執筆)

#