コラム/エッセイ

チームオンコロジーへの道

Essay: Road to TeamOncology

チームオンコロジーのキーワードは、あらゆる領域の管理や実践に役立つ!

看護師:中田登紀江

中田 登紀江 Tokie Nakata

看護師

元 神戸大学医学部附属病院 看護部 Former Kobe University Hospital

腫瘍内科の病棟から医療安全の部門へ

腫瘍内科病棟の看護師長から院内全体の医療安全管理者となってほぼ1年が経過した。腫瘍内科の病棟で勤務していたことで、2011年の第4回チームオンコロジー・ワークショップに参加し、Japan TeamOncology Program(J-TOP)と“ご縁”ができた。

今回の異動は心情的に複雑だった。理由はがん医療と直接関係がない医療安全の部門に異動することで、今でもやや遠く感じるJ-TOPとのご縁がさらに遠くなると思ったからである。ところが、その思いは見事に払拭された。

チームオンコロジーのキーワードは、医療安全の分野でも重要!

現在の仕事はこれまでと様変わりしたが、インシデント報告の内容や改善策を確認・指導することがその役割の一つである。そして、それらを日々行なっている中で、次のようなことに気付いた。「チーム」「コミュニケーション」「専門性」「リーダーシップ」、どこかで聞いた言葉が業務の中でよく出てくるのだった。それらはJ-TOPが行っているワークショップやアカデミーにおけるチームオンコロジー(がんチーム医療)のキーワードであり、これらの言葉は医療安全においても重要であることに気付いたのである。

つまり、私がワークショップやJapanese Medical Exchange (JME) Programなどで学んだチームオンコロジーの研修経験は、医療安全管理者としての役割を果たす上で非常に有効であった。そして現在の私の立場は、自分の考えや活動が院内全体に影響を及ぼすため、上記の経験が以前よりも活かされているようにさえ感じている。

コミュニケーションスキルの向上は、医療安全に役立つ

たとえば、コミュニケーション。インシデントの発生はコミュニケーションエラーが要因であることが多い。あと一言を伝えなかった、相手に確認せずに思い込みで実施した、必要な人達で十分なディスカッションをせずに実施したなどの事例がある。このように、安全文化の醸成のためには、コミュニケーションスキルの向上が重要であった。

そこで、医療安全部門が主催する職員必修講習のテーマにコミュニケーションを取り上げた。これまでコミュニケーションを真っ向から取り上げたことがなく、自分で提案をしてみたもののかなりチャレンジングな提案であったが、この種の研修経験がない職員からは、今後も研修があれば参加したいという意見が多数を占めた。

薬剤師の役割拡大もまた医療安全には大切!

次に薬剤師の業務。インシデント報告からは薬剤師の役割拡大の必要性がはっきりと伺える。そこで、医療安全活動を共にしている薬剤師の方に「これからは薬剤師さんの時代よ」といつも力強く言っているが、このように自信を持って言えるのも、また、この4月から病棟配置の薬剤師の役割拡大についてイメージがしやすいのも、J-TOPのチームオンコロジーの様々な経験のお陰である。

J-TOPの活動は、医療者を牽引する先駆的な取り組みである

最後はチームについて少し。現在、当院では、WHOが手術安全のために世界に向けて推奨する「手術安全チェックリスト」を導入するため、ワーキンググループを立ち上げて取り組んでいる。このチェックリストの導入には、各々の医療者が専門性を発揮し、チームとして手術を安全に行うという意図がある。

この考え方は、J-TOPの「チーム医療の定義」にある、「チーム医療は、患者自身もチームの一員と考え医療に参加し、医療に関わる全ての職種がそれぞれの専門性を発揮することで、患者の満足度をより高めることを目指した医療を指します」という考えに通じるものである。

このように、J-TOPのチームオンコロジーやその活動は、あらゆる領域の管理や実践に役立ち、また、医療者を牽引する先駆的な取り組みをしていると実感している。

(2013年 4月執筆)

ちょこっと写真、ちょこっとコメントMy interest at a glance:

1月下旬の話である。いつもの通勤路で最初に咲いた“さざんか”の花に気付いた(写真の赤い花)。

中学生の頃、美術で多色版画の授業があったが、お洒落な先生が参考までにと、自作の“さざんか”の多色版画を見せてくれた。“さざんか”も多色版画という言葉もその時に知った。毎年、“さざんか”を見ると思い出すことである。

私がこれまで出会った人達が、何年か先に私のことを思い出してくれることがあるだろうか。そうだとしたら、どんな風に思い出してくれるのだろうか。

(2013年 4月執筆)

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