コラム/エッセイ
チームオンコロジーへの道
Essay: Road to TeamOncology
放射線治療の未来は明るい、チームオンコロジーはめちゃ楽しい
NOR SHAZRINA ノル シャズリナ ビンティ スライマン
医師
兵庫県立粒子線医療センター Hyogo Ion Beam Medical Cente
私は今、放射線腫瘍科の医師兼大学院生として、日々邁進しております。
私の診療ポリシーは患者さんと同じ目線で病気を考え、一人一人に合った安全かつ有効な放射線治療をチームで提供することです。なので、診療のモットーは「TeamOncology is FUN! 放射線治療は明るい!」です。MDアンダーソンがんセンターでのJapan Medical Exchangeプログラム(JME)を終えてから一年になろうとしています。Japan TeamOncology Program(J-TOP)とJMEで学んだこと、そして現在も奮闘している私の挑戦の日々をシェアさせていただきたいと思います。
日本への留学
私の出身はマレーシアです。10年前に、世界で活躍する女性医師を目指して家族を離れて日本に向けて飛び出しました。その時は「あなたならどんなことでもできる」と言ってくれた両親と5人の兄弟に背中を押され、当時は怖いもの知らずでした。
日本に来てから、先ず、言語の壁にぶち当たりました。マレーシアにいた18年間は26個のアルファベットしか習っていなかったので、日本の医学部での6年の間に教わった、数えきれないほどのひらがな、カタカナそして漢字の洪水に溺れかけました。幸か(不幸か)周りの仲間に関西弁で日本語を教わり、励まされ、お陰で医学部を無事卒業することができました。
J-TOPに出会え、JMEを経験して
J-TOPとJMEプログラムを通してリーダーシップとコミュニケーション、メンターシップ、臨床や研究現場の集学的チーム医療、サバイバーシップなどについて学ぶことができました。私が一生を尽くすと決めた放射線腫瘍分野にもチーム医療が欠かせないということをそこで実感しました。近年、副作用を抑えながらより高い効果を狙う高精度放射線治療の領域が進展し、粒子線治療、サイバーナイフ、トモセラピーなどカッコいい名前の機器による治療が受けられる機会が増えてきています。放射線治療は「がんを切らずに治す」と度々メディアで紹介されますが、その正確さと安全性を保つためにその裏で放射線腫瘍医師、診療放射線技師、医学物理士、看護師、事務方や他診療科の多職種のスタッフが各々現場力を発揮しながら支えています。がん医療の最先端を走るMDアンダーソンがんセンターで行われている医療を身をもって体験したこと、そこで得た知識と経験を生かし、若手でありながらも、自分自身が今いるところでリーダーの一人となり、日本の放射線治療の未来を明るくし、がん医療の発展のために私は貢献していこうと決意しています。
次の目標は、“明るい放射線治療”
放射線治療室に足を踏み入れたことのある方は少ないかもしれませんが、一般的に皆さんが思い浮かべるのは暗いイメージがほとんどでしょう。治療照射室の床、壁、天井や出入口の扉は、放射線を遮蔽するために厚いコンクリートや鉄などが用いられ、照射装置は窓もなく日当たりの全くない地下室に設置されることも多いのです。今はこの暗いイメージを変えるため放射線治療室を改装し、施設はできるだけ明るい色や音楽をかけて雰囲気を和らげています。当院でも本年度、放射線治療室が移転することになり、壁がピンクと緑に彩られる予定です。暗いイメージを払拭し、明るい雰囲気に変わることをとても楽しみにしています。また、昨年から神戸地域に放射線治療領域で活躍する看護師、放射線診療技師の仲間と一緒に“放射線治療のイメージを明るくすること”を目標とした新プロジェクトを始動しました。もうすぐ第一段が完成します。医療分野以外のプロのアーチストやアマチュアの方々にご協力をいただき、手帳や音楽を作成するなど、右脳を働かせる試みに取り組んでおり、とても新鮮で楽しく活動を展開しています。放射線治療終了後でも患者・医療・社会、人と人をつなぎながら、皆さんが自分らしく生きるサポートができればと願っています。
挑戦の日々はまだまだ続きます
JMEで様々なことを一杯学んだのですが、それをそのまま日本の臨床に応用することは本当に難しいです。何でもやりたがり、新しいことに次々と挑戦したい私は、壁にぶつかることが多々あります。米国と日本では医療のシステム自体が違うため、理想通りにいかないことが多いのです。駆け出しの医者の私がリーダーシップをとる難しさ、そして女性医師としてワークライフバランスを保つことにも苦戦しています。JMEで学んだメンターシップを通じ、経験豊富な先生方のアドバイスの?もとに、小さな目標を設定して、今はハードルをひとつずつ乗り越え、一歩一歩進めるように心がけています。「You have not come this far to fail」という母親の言葉をよく思い出します。つまずくたびに、家族という真のサポーターとこのがん診療領域で同じ目標に向かって頑張っている仲間とチームがいると感じているからこそ、前進できます。スポーツと同様でチーム医療でも一人一人のメンバーは欠かせない存在。現在もどの時期でも、家族や仲間、真のチームに支えられて今の私があります。未だ駆け出しではありますが、これからも世界を目指してコツコツと診療と研究活動に努力していきたいと思います。今年はハーバード大学に訪問予定です!
最後に、去年AKB48ビデオにデビューさせていただきました。外来診療をしている途中でも「先生、YouTubeに出ていますね」と言われて照れくさい場面が度々ありました。私の誘いにご協力していただいた所属病院、外勤先の皆さんに、この場を借りて言います。「一緒に踊ってくれてありがとう!」皆さんの支援なしではこのビデオは生まれていません。勇気を出したことで、患者さんとご家族の笑顔が見られて最高です。“チームオンコロジーはめちゃ楽しい”このチームの一員になれて本当によかったです (^^)
(2014年 4月執筆)
秋から冬に変わる立山の姿を眺めながら未来予想図を描く私です。日本に来てから数々の名所を歩き回りましたが、やはり立山連邦に勝る美しさはありません。昨年には家族をつれて大所帯で電車やトロリーバスで “のぼりました”。腰痛持ちの私と膝を痛めている母には丁度良い運動です。このような壮大な自然、アロマとアルファ波ミュージックでずっと癒されたいです。
(2014年 4月執筆)