コラム/エッセイ

チームオンコロジーへの道

Essay: Road to TeamOncology

看護師として~ 私のチームオンコロジーへの道

看護師:大内 紗也子

大内 紗也子 Sayako Ouchi

看護師

京都大学医学部附属病院 Kyoto University Hospital

みなさま、こんにちは。
私は現在、京都大学医学部附属病院(京大病院)の血液腫瘍内科病棟で看護師として働いております。
このような機会をいただき、何を書こうかなぁ…と考えながら、ちょうど新人看護師も入りましたので、社会人になってからの私、これからのライフワークとしてやっていこうと思っていることを皆さんにお伝えしたいと思います。

看護学生時代~大学院に入るまでの私

私のアイデンティティは看護師です。もう小学生のころからなぜだか、看護師になると決めていました。そしてがん医療には看護学生のころから興味を持っていました。きっと祖父を二人ともがんで亡くしたことがきっかけだったと思います。社会人になって初めて就職した病院では希望通りがん患者さんが多い呼吸器内科病棟に配属されました。それから4年間、肺がんの患者さんや慢性肺疾患の患者さんを中心に、看護させていただくことができました。看護師としてベッドサイドケアをさせてもらっていると年に何回か心にぐっとくる出来事があります。意識が混濁している患者さんにご家族が持ってこられたジュースを口の中に数滴入れると「うまいなぁ」とつぶやいて家族と一緒に泣いて喜んだり、家に帰りたくて毎晩寂しい思いをしていた患者さんが、いよいよ臨終が近くなった際にご家族が夜通し付き添ってくれた時、患者さんの「今日はいい日ねぇ」というつぶやきを聞いたり、それぞれがとてもつらい最中にありながらも、お一人お一人がその時に感じられた思いを、とっさに発しておられた言葉の数々に、心を揺さぶられる体験をさせていただきました。

看護師5年目を迎えたときに、血液腫瘍内科に配属されました。当時就職していた病院は、日本一の症例数を誇る臍帯血移植を行っていました。患者さんたちは奇跡を信じて、一縷の望みにかけて移植を行うために日本全国から集まってきていました。そこで患者さんたちは言葉では言い表せないほどの壮絶な闘いをしていました。そんな患者さんたちと半年過ごしていたら、私は何をやっているのだか、何が看護師としての役割なのかわからなくなってしまいました。そしてもう一度看護とは何かを勉強するために大学院に入りなおしたのです。

大学院でのアイデンティティの再獲得

大学院での2年間は、自分と向き合う時間でした。正直にいいますと、大学院時代は自分自身との戦いで、勉強を続けていくことがとてもつらかったです。私ががんばろうとか、やってやろうとか思う源は患者さんにあるのだということをその時に改めて思い知らされました。私は、教育や研究の世界ではなく、生涯ベッドサイドのケアに当たろうと思ったのも大学院での2年間があったからこそです。看護師というものは、患者さんがそばにいるから頑張ろうと思い、もっと医療を改善したいと思えるものなのですね。

これから私が目指すもの

大学院を修了し、今の職場(京大病院)に就職して5年がたちました。今は何がどう変わったのか?自らに問いかけたとき、大分物事の本質を見抜く力をつけることができたと自負しています。患者さんの言葉の裏に隠れた本音の部分、患者さんが何を言いたいのか、理解することが随分とできるようになったと思います。私自身心が揺れ動くことはまだまだたくさんあります。でもそのようなときも一人で悶々とするのではなく、その気持ちを一緒に働く同僚たちと分かち合うことができるようになったと思います。

大学病院の中でチーム医療を推進するのは、骨が折れる作業です。なぜなら研究、教育機関ということで医療者が年々入れ替わること、それぞれの医療者のバックグラウンドが違い、「研究」に重きを置く人がたくさんいるからだと思います。医療者は、大前提に「患者さんのために」がありますが、何が患者さんにとっての幸せなのかを考える土台の違い、共有すべき価値観の違いがみられることがあります。先日終末期に差し掛かっている患者さんの今後について話し合いを医師と看護師で行いました。その際も医師との間で「どこまで抗がん剤ができるか」という点でなかなか意見がまとまりませんでした。もちろん議論すべきは、「患者さんを中心にした」医療だと思います。それでもそれぞれの学問の背景が違う中では、分かり合えないこともたくさんあります。そのような中で大切になってくるのが「エビデンス」です。私たち看護師はEBP(Evidence based on practice)とよく言われています。看護系大学は、急激に増加していますが、まだまだ学士を取得している看護師は2割にも満たない状況です。多くの看護師は生業としての看護を行ってきた人が多いのです。看護の基盤は看護学にあり、アカデミックな世界なのです。ただ看護学は、実践科学というベッドサイドのケアを科学的に行うものでなければなりません。だからこそ修士号や博士号を持つ看護師が、ベッドサイドの患者さんの看護を科学的な根拠をもって行っていくことが今後大切になってくると思っています。そのため、修士号や博士号を持つ看護師が、研究室でひたすら看護の研究をするのではなく、ベッドサイドの現象を科学的に吟味し、それを世の中に発信していくことが大切であると考えています。

時にはくじけそうになることもあり、私がやっていることがいいことなのか、疑ってしまいそうになることもあります。それでも患者さんやご家族の幸せのために、看護師がアカデミックな世界を基盤として、医師をはじめとする他の医療専門職者と議論しあい、患者さんを中心とした医療が実践できるように、一日、一日、一人ひとりの患者さんを大切に過ごしていきたいと思っています。それが今、私が歩んでいる「チームオンコロジーへの道」です。

(2014年 6月執筆)

ちょこっと写真、ちょこっとコメントMy interest at a glance:

従妹と妹と私です。長い休みになると従妹は叔母と一緒にはるばる遊びに来てくれます。昔はこんな風に従妹たちと現在やこれからのことを語らうなんて思いませんでした。それでも今は、いろいろと家族のことやこれからのことを話したりしています。

先日は、近所にあるサントリー山崎蒸留所や大山崎山荘といった知られざる名所を訪れました。その中で宝積寺にいき、そこで、閻魔大王やその部下たちに巡り合いました。人は亡くなったら、まずは閻魔様が、生前の所業を吟味して地獄に行くか、天国に行くか振り分けていく。私の所業にはどんなことが書かれているだろう?人の役に立つ仕事をしていたい、それが私の生きがいであり、これからもそれを目指してやっていきたいとの思いを強くしました。

(2014年 6月執筆)

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