コラム/エッセイ

医療者とのコミュニケーションの取り方
~主体的に医療を受けるために~

Communicating effectively with medical proffessionals

Vol.06

ミニ・メディカルスクール

今回は、アメリカの科学者が科学コミュニケーションを推進する学会、AAAS(The American Association for the Advancement of Science:米国科学振興協会)の年会で仕入れてきた話題をお伝えします。

メディカルスクールとは、医学学校、つまりお医者さんを育てるところですが、ミニ・メディカルスクールは、その超簡易版のようなものです。現在米国に50、カナダに5つのミニ・メディカルスクール(以下ミニ・メディ)があるそうです。授業料は、多くの学校でタダ、無料です。

2006年のAAAS年会で紹介されていたニューヨークのワシントン大学にあるミニ・メディは、1999年にスタートし、春と秋に約8週間のプログラムが開講されています。市民に向けて開放されており、平日の夜間などに授業があります。授業内容は、講義だけでなく、応急処置の指導、また顕微鏡下での手術や内視鏡手術、聴診器を使っての診察などを実体験させてもらえます。生活に役立つ医学知識だけでなく、「日常生活で体験する可能性があること」を超える領域まで市民に体験してもらう、すごいプログラムです。

このミニ・メディ、最初に作られたのは、ロッキー山脈の麓デンバーにあるコロラド大学です。コロラド大学ヘルス・サイエンス・センターのメディカルドクター、ジョン・コーエン先生が作ったのが始まりです。そこでは、1989年の設立以来、すでに9000人が学んでいます。本家のミニ・メディの授業は、講義が主で、自然科学博物館のアイマックスシアターで開講されています。コロラド大学のサイト情報によれば、これまでに75の医学校が情報提供を求めてきており、かのNIH(米国国立衛生研究所)でも数年前から同様のプログラムを始めているとのこと。全米に広がりを見せている様子がうかがえます。

もちろん受講生はここで習った医療行為を実際に行うことはありません。では、このプログラムの目的は何でしょうか。コロラド大学のサイトには、受講者が人間の体を理解する科学的な知識を高めるためという目的がうたわれています。個々人の受講者にとってはそうでしょう。しかし、これがコミュニティーサービスとして行われていることに目を向けると、ミニ・メディの別の目的が見えてきます。

受講者が見たり、聞いたり、体験することは、元気な状態の時にはなかなか考えてもみない病気や治療の話です。深刻な病気や高度な医療行為のことを元気な状態で考えることができた人たちが、やがて地域の医療コミュニケーションのリーダーとなり、人々が日常的に医療についてのコミュニケーション活動を活発化していくきっかけを作ってくれます。医療行為についての漠然とした不安感などを軽減する役割も果たしてくれます。

日本でも医療コミュニケーションは科学技術コミュニケーションに先んじて活発化しており、医療コミュニケーションのプログラムが科学技術振興調整費で行われています。しかし、受講生は大学院生やマスコミ人、医療関係者など、実質的に何かの分野の「専門家」がほとんどで、内容も大学院相当などと指定されており、一般の人には敷居が高いようです。

世間一般に広く分け入って医療コミュニケーターの裾野を広げるために、ミニ・メディカルスクール、日本でもできないでしょうか。

(2007年7月執筆)

難波 美帆
難波 美帆
1971年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科 准教授。 サイエンスライター。患者向けがん雑誌の編集に携わるなかで、チーム医療の理念に共感する。アドボカシーを担うNPOや出版活動に関心がある。