コラム/エッセイ

チームオンコロジーへの道

Essay: Road to TeamOncology

患者中心の医療を目指して

看護師:奥出有香子

奥出 有香子 Yukako Okude

看護師

順天堂大学医学部付属順天堂医院 Juntendo University Hospital

1.看護師になり感じたこと、考えたこと

私が看護師として初めて勤務した病棟は、消化器内科の病棟で、がんの終末期の患者がたくさん入院している病棟でした。初めての夜勤で看取りの経験をして以来、多くの人の臨終の場面に立ち会ってきました。その中で感じたことは、人にはそれぞれ人生のドラマがあるということ、また、いろいろな死の迎え方があることを知りました。私はこの病棟で働くことができたおかげで、「生きること」「死ぬこと」「家族の大切さ」などを学ぶことができました。まさに、患者・家族は懸命に生きる姿を通じて、人生の中で大切なことを私に教えてくれました。

このような尊いことを教えて下さった患者・家族に対して、患者中心の看護が提供できたのだろうかと疑問に感じ、もっとよりよい看護を提供したい、そして一緒に働く仲間を大切にしながら仕事をしたいと思うようになりました。そこで、大学院で専門的な知識と技術を学び、がん看護専門看護師を目指したいと考えるようになりました。

2.MDAに留学して

私が2004年がん専門看護師になった同じ時期に、当院では乳腺センターを開設する運びとなり、私は開設と同時に乳腺センターへ異動になりました。乳がん診療において、集学的治療や多職種によるチーム医療は必要不可欠であり、乳腺センターでは、患者・家族を中心とするチーム医療の実現を目標に掲げていました。

そこで、齊藤医師と田嶋薬剤師と共に2007年Japanese Medical Exchange (JME) ProgramでMD Anderson Cancer Center(以下MDA)へ3週間留学させていただきました。MDAに行くと職員の笑顔がキラキラと輝いていて、みんなMDAで働いていることに、誇りを持っていました。職員全体が、患者中心の医療 「Do The Right Thing」を合言葉に同じ目的に向かって進んでいました。ビジョンとミッションが明確になっているからこそ、みんなが一つの方向に向かうことができることを実感しました。

この留学で大きな収穫がありました。その一つは、多職種がどういう役割を持っているかということを確認するために、留学中それぞれの職種がプレゼンテーションをして、お互いの役割を理解できたことです。チーム医療を推進するための要素は、日本もアメリカも変わらないことを実感しました。チーム医療において、お互いの職能を理解し、尊重し、十分にコミュニケーションをとることの重要性を学びました。

また、「状況的リーダーシップ」の考え方を学びました。講義の中で、自分の特性や傾向を知ることができたことは、私にとって大きな発見でした。そして、誰もが状況的にリーダーシップを発揮することができるという考え方は、私にとっては目からうろこの状態でした。今までの私の考え方を変える大きなきっかけとなりました。

さらに、MDAでNurse Practitioner(NP)の活動を見学し、エビデンスに基づく専門的知識と技術を基盤に、医師と共に責任を持って患者をケアしていくNPの姿を目の当たりにし、これから専門看護師としてどう行動するべきかという今後の活動指針を見出すことができました。

3.MDA留学後

私達は、MDAから帰国の飛行機の中で、日本に帰ったら学んだことをどう行動に活かすかということを熱く語り合いました。 そして、以下のことを行っています。

  • 院内でのMDAの留学発表会
  • 多職種のカンファレンス

    外来看護師からカンファレンスのテーマを挙げ、定期的にカンファレンスを行うようにしています。テーマの内容は、外来通院中の患者の治療方針の確認や医師の説明に納得ができていない患者についての情報提供、再発・転移した終末期の患者の今後の療養の場の選択などです。その際、看護師・医師だけでなく、多職種が集まることで多角的な視点で話し合えるように看護師がファシリテーターの役割を務めています。

  • 病棟と外来の連携を図るためのカンファレンス

    乳がん治療は外来が主体となり、入院期間が短くなっているため、外来から病棟へ情報を提供し、情報交換を行っています。患者が安心して安全な治療を受けることができるように継続看護を行っています。

  • リンパ浮腫外来の開設

    リンパ浮腫予防の指導やセルフケア能力を高めるための支援をスタッフと共に行っています。

2011年私は、がん治療センターへ異動となりました。乳腺センターでのこれらの活動は引き続きスタッフが行っており、私は、今がん治療センターから支援する立場となっています。現在、私はMDAで学んだことを活かし、がん治療センターでチーム医療を推進していきたいと思っています。

4.患者・家族中心の医療を考える時に大切なこと ~当事者の視点を持つこと~

私達が患者・家族中心の医療を考える際に、専門的知識を持ち、エビデンスを理解することは大前提といえるでしょう。さらに、患者・家族中心の医療を考える時に忘れてはならないことは、当事者の立場で考えることだと思います。

「もし自分が患者の立場だったら、どう感じるのか、どう思うのか」「もし自分の家族だったら、どう思うのか」という当事者の視点で考えることによって、自分の患者に接する態度・言葉の選び方が変わってくると思います。真の患者・家族中心の医療を目指して、目の前にいる患者・家族との出会いを大切にしながら、職場の仲間と共に日々の看護を積み重ねていきたいと思っています。

(2011年10月執筆)

ちょこっと写真、ちょこっとコメントMy interest at a glance:

私は看護師となり、多くの人の死の場面に接してきて、「人間とは?」「生きる意味とは」「死とはなんだろう」という、人間についての根源的な問いを感じ、1997年インドのカルカッタ(現在のコルカタ)のマザー・テレサの施設でボランティアとして働きました。

インドでは、人が道で生まれ、道で亡くなっていくという状況であるにも関わらず、人々の笑顔は輝いていました。それは今というかけがえのない時を一生懸命に生きていることの証だったのだと思います。

私がボランティアに行っている間にマザー・テレサが亡くなりました。前日のミサにも出席されていたマザー・テレサがまさか亡くなったとは、私自身信じられない気持ちでいっぱいでしたが、やがてマザーハウスで葬儀が始まりました。葬儀に参列する人は、マザー・テレサのお世話になっていた人々、孤児院の子供、ハンセン氏病の方、お金のない人々であり、時間がたつにつれ、参列者の列もどんどん長くなっていきました。

インドの方々は、マザー・テレサの訃報を聞いて、いてもたってもいられない思いで、歩いてきた様子でした。その時、私はマザー・テレサの偉大さを感じ、胸があつくなってきました。私がインドで体験したことは、今の私の原点でもあります。

* 写真は、亡くなる少し前の1997年8月26日に行われた誕生日のお祝いの写真です(筆者撮影)。
マザー・テレサ (フリー百科事典『ウィキペディア』より)

(2011年10月執筆)

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