コラム/エッセイ
チームオンコロジーへの道
Essay: Road to TeamOncology
恋愛はキャリア形成と両立しうるか?
帶刀 朋代 Tomoyo Taito
看護師
東京医科大学病院 看護部 Tokyo Medical University Hospital
はじめに
いわゆる男運の悪い独身フリーの美人の友人がいる。その彼女と先日ご飯を食べているとこう言い出した。「最近紹介された人がなんだか素敵な方なのだけれど、このままお付き合いになってしまうと少し怖い」
どういうことかと話を聞いてみると、「恋愛に時間を割くとなると今まで積み上げてきたキャリアをおろそかにしてしまう感じがする」のだそうだ。なるほど。これはチームオンコロジーへの道においても重要な話である。
キャリアウーマンの友人
彼女は資格を活かしながらバリバリと働いている、いわゆるキャリアウーマンである。働く喜びも知っていて、笑顔のかわいい彼女と飲むと活力チャージにもなるような素敵な女性である。その彼女が新しい出会いに一歩踏み込めないのは「恋愛にはまって仕事をおろそかにしてしまうかもしれない」という自らの変化への恐れからだという。なんだか、かわいいエピソードなのだが、それで恋愛に二の足を踏んでしまうのももったいない。また、この手のストーリーはナース仲間の間でもよく耳にすることがある。
恋愛(結婚)とキャリア
私自身はキャリアデベロップメントということについて「専門職者としての自分のスキル(看護技術に限定しない)と役割が拡大していくこと(Expanded role)」と理解している。そして、仕事の価値はキャリアデベロップメントを通して自分自身が成長し続けられることだと考えている。仕事上で私が学んできたことを実践し、今度はまわりに拡げていく。また私自身が新しく学んできたことを実践し、拡げていく、ということを繰り返しながら日々を過ごすことが私にとっての価値ある仕事の実践にほかならない。
さて、これを繰り返しながら恋愛(結婚)との両立は不可能だろうか? 難しい問題であるが、後輩にどんどん私の役割を引き継いでもらうために、私はこの答えを“両立は可能”と声を大にして言わなければならない。
“両立は可能!”
そのために必要ないくつかのフェーズを考えてみた。
(1)恋愛初期は恋愛にうつつを抜かしてもいい時期(であってほしい)
批判を覚悟の上で書くならば、この時期は恐らくそう長くはない。生活に対する恒常性は人間に備わった本能だろうか。今までの生活と新たな恋愛がもたらすアンバランスさは遠距離恋愛でない限り1年と続かないというのは私の実感である。
このアンバランス期、当人は今までの生活リズムや心のもち方に新しい風が送り込まれてくるのを自然の成り行きに任せて受け入れればよいと思うし、見守る方は、「早く結論出しなさいよ~」なんていうことは思ったとしてもおくびにも出さずに「たまには新しい刺激もいいんじゃない」などと言って心から温かく見守る時期である。「怖い」と思う自分も楽しむことができる。また、この時期はできる・できないはともかく「将来は…」などと夢を語り合うことで来たる荒波に備えて絆を強める時期でもある。
(2)アンバランス期~安定期への変化の時期
この時期はお付き合いしている相手がいる生活が日常に変化していく時期である。生活の中で大事にしたいもの「価値観」にずれが生じ、別れる機会が多くなるのもこの時期である。私の経験から、この価値観について話し合うことは重要だと考える。このずれについて価値観が変化するか、あるいは価値観の違いを尊重できるか(我慢ではなく尊重できるかが重要)しないと、後々のひずみを生む原因となる可能性をはらんでいると考えている。
プロポーズを受けた後では、なおさら具体的な話し合いが必要である。特に、大きく影響するのは子供・親・進学などではないだろうか。また、「やっぱり一人のほうがいいわ」など、自己の価値観(生き方)を確認できる場合もある。ここで、「だめだな~」と考えた価値観のずれについては、何年たっても「だめ」のままである場合が多い。
(3)安定期の中での変化
正直、フェーズ(3)以降どうなっていくのか私自身は見当もつかない。なので、今の自分がいる場所までの話をする。一緒に生活をするようになり少しずつ生活は変化していく。ほぼ毎晩一緒にご飯を食べていたが、友人と食事をする機会が増えたり、レポートなどに追われて外食をする機会が増えたりする。これら変化については「なぜ、私たちの人生においてこの変化が必要なのか?」を考え、シェアする必要がある。
ただ飲みたいから友人と飲みに行くのではない。飲むことで情報交換ができたり、友人から活力をもらったり、ストレスを発散できるなど、具体的なアウトカムの提示が必要である。結果として起こる「私もそうしたい」という返答には黙ってうなずいて了承するしかない。それが家族だからだ。そして、家族とは無償の互助システムである。そんなことを繰り返しているうちに、夫は覚悟を決めるだろう。「ほんとに、お前の旦那やれる人って俺しかいないんだよな~」もうこうなったら、夫には足を向けて寝られないのだが、Japanese Medical Exchange (JME) Programには参加できる。今日も夫に感謝である。
(2012年 9月執筆)
写真は、当院泌尿器科内で立ち上げたオンコロジー部(on部)での一枚です(右端が筆者)。on部は個々の患者さんにとってベストな治療が何かを考えられる集団作りを目指しています。今は泌尿器科がんの標準治療について医師によるレクチャーを毎月1回ペースで行っています。
参加者は医師、薬剤師、看護師。今後は医療ソーシャルワーカーも参加してくださる予定です。運営は「第11回みんなで学ぼうチームオンコロジー(青森)」に参加した會田さんと西平さんが担当です。後輩の行動力に感謝、感謝の日々です。
(2012年 9月執筆)