コラム/エッセイ

チームオンコロジーへの道

Essay: Road to TeamOncology

勇気の源、“チームオンコロジー”

薬剤師:下雅意彩

下雅意 彩 Aya Shimogai

薬剤師

済生会兵庫県病院 Saiseikai Hyogoken Hospital

あなたの勇気の源は何ですか?
私の源はチームオンコロジーです。

「チームオンコロジー」との出会い

かれこれ10年程前になります。薬剤師になりたての頃、調剤業務も覚えるのに必死のパッチである中、畏れ多くも女性というだけで乳がんの患者さんの治療に関わらせていただく機会を得ました。

そこで、チームオンコロジーという聞き慣れない言葉を耳にしました。乳がん患者さんに関わり始めたばかりの私は何となくその響きに魅かれ講演会へ足を運びました。そしてこの講演会をきっかけに、その言葉はすっかり私の耳に馴染んでしまいました。講演の中では、アメリカで実践されているチーム医療が紹介され、医師、看護師、薬剤師の方々がそれぞれの立場で、自身の考える役割についてお話しされていました。各職種が得意分野で力を発揮しながら、一人の患者さんに最適な治療を提供するために顔を突き合わせ、何度も議論を重ね協働する姿にワクワクし、こうありたい、目指したいという思いで、私は半ば興奮気味になりました。演者は当時JME (Japanese Medical Exchange Program)から戻られた先生方で、中でも同じ職種の薬剤師の先生の言葉が心に残りました。「私は薬剤師ですが乳腺外科に所属しています。医師の中に薬剤師一人、また薬剤部からも離れ孤独です。でもそれでいいと思っています。」たとえ孤独でも、職種の殻にこもるのではなく外へ飛び出し、他職種と協働することで患者さんにとってよりよい医療へと繋げられるという力強いメッセージを感じました。視界が広がり一歩踏み出す勇気が湧きあがったのを今でも鮮明に覚えています。

人と人とのつながりの中から

衝撃的な出会いから数年経ち、2006年、2012年にJapan TeamOncolgy Program(J-TOP)に参加しました。このワークショップではアメリカだけでなく、日本全国から集まってきた参加者との交流も私にとっては貴重な出会いでした。各施設での取り組みを情報交換する中で、またまた殻を破る必要性にぶち当たったわけです。大学病院のようながん拠点病院における人的、設備的リソースの違いに圧倒されました。でも、患者さんにとって住む場所によって受けられる治療が制限されるのはおかしい、どこに居ても標準的な治療が受けられる環境をつくろうと模索しました。特に3日間共にチーム医療について語り合ったワークショップの仲間とのつながりに勇気づけられ、解決策を見出す一歩となったことが多々あり、今も心強く感じています。

そして、2013年にJapanese Medical Exchange Program(JME)に参加させていただいたことで、より仲間の大切さを実感するようになりました。5週間共に研修した同志やいつも支え見守ってくれるMDAのメンターの存在があり、自分はたくさん仲間の一員なのだと思えば、これからも勇気を出して一歩前進できる気がしています。

勇気と仲間をもって前進

JMEから戻り、より効果的に密に患者さんに関われるよう今年の7月薬剤師外来を立ち上げました。薬剤師外来では、診察前に薬剤師が患者さんと問診することで、化学療法の副作用出現などをじっくり聴き取り、医師の処方へリアルタイムに反映させることを心がけています。採血の待ち時間を利用していることもあり、患者さんには好評のようです。薬剤に関わらずがんに関する不安を口にされる方もいらっしゃいます。その思いを他職種と共有したり、専門家に連携したりすることもありますが、患者さんをより身近に感じることができ、至らない点から学ばせていただくことが本当にたくさんあります。

開設には医師との信頼関係が必須でした。比較的スムーズに進んだのは、もともと病棟でのコミュニケーションを密にとっていた医師から、ぜひやってほしいとの後押しがあったからでした。MDAで出会ったチーム医療も、共に働くメンバーを信頼している風土があり、そして信頼されているからこそ一人一人が自分の能力を信じられる、自分を信じられるからこそ患者さんや他のメンバーに対して最高のパフォーマンスを堂々と発揮している、また信頼度が増す…一人一人の存在をもって好循環なチームが成り立っているように感じました。やはり日々のコミュニケーションは欠かせません。

こうして様々な医療従事者が接してくる環境をみて、患者さんが支えている医療者をより深く感じてもらえたらと思います。それが、患者さんの一歩前に進む勇気になればとてもうれしく感じます。

昨年、チームオンコロジーVer.恋するフォーチュンクッキーの公式ビデオに参加させていただきました。同じ年、当院の忘年会でかくし芸としてオンコロジーメンバーを再結成し出場しました。見事‘シャイン(輝く)賞’をいただきました。チームオンコロジーって楽しそうだねという声をきいています。患者さんも医療者もその人らしく輝いていける社会のために、仲間を増やし、勇気を増幅しながら一歩ずつ、患者さんの背中に優しく手を添えて前進していけたらいいなと思います。

(2014年11月執筆)

ちょこっと写真、ちょこっとコメントMy interest at a glance:

今年10月に日本文化のひとつである茶道を通して、海外での文化交流を目的にアメリカ、ワシントン州へ行ってきました。日本のおもてなしスピリットは、どこかチーム医療に通じるものがあります。お点前班、水屋班、お運び班など、メンバーがそれぞれの役割を担いながら、絶妙なタイミングを計り最高の空間を創り出します。もちろんお客様もその空間を創るいちメンバーとして重要な役割を果たされています。一盌を前にみんなが一瞬で笑顔になる、そんな時間をたくさんの人と協働しながら創り、共有できることに喜びを感じています。

(2014年11月執筆)

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